世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
北原白秋「落葉松」
二十分ほどの距離なので
雨がちの日だが
いつものように歩いてしまおう
そう思って
歩き出したら
途中から
けっこう強い降りになった
戻るわけにもいかず
そのまま
歩きつづけていく
バッグも靴も
いちおうの防水仕様なので
そう心配ではない
ところどころ
水が溜まっていて
ビシャビシャさせないように
浅いところを
ピチャピチャと進む
ピチャピチャ
ピチャピチャ
そうしているうちに
なんだか
うれしくなってきて
北原白秋の雨降りの歌を
思い出してしまった
ピッチ ピッチ
チャプ チャプ
ラン ラン ラン
ピッチ ピッチ
チャプ チャプ
ラン ラン ラン
はじまりは
あめ あめ ふれ ふれ
かあさんが
じゃのめで
おむかい
うれしいな
だったな
そのあとで
ピッチ ピッチ
チャプ チャプ
ラン ラン ラン
あゝ 白秋は
ほんと
天才だったなあ
白秋なんていう人も
その人生も
この歌をくちずさむ子どもらには
どうでもいいほど
後退してしまって
消えてしまって
ピッチ ピッチ
チャプ チャプ
ラン ラン ラン
だけが
自然と口をついて
出てくる
これ以上の
詩の
理想のかたちが
あるだろうか
子どもでもないのに
いい大人が
たったひとりで
雨のなか
くちずさみながら
歩いて行く
ピッチ ピッチ
チャプ チャプ
ラン ラン ラン
ピッチ ピッチ
チャプ チャプ
ラン ラン ラン
0 件のコメント:
コメントを投稿