夕食後の食器洗いで
もちろん箸も洗う
器に突っ込んでおいたものを
まとめて洗ったり
一本ずつ洗ったりする
ほかの食器とちがって
洗う時の箸には
奇妙な扱いづらさがある
洗おうとすると
なぜだか一本二本
シンクのなかに落っこちるものがある
まとめて洗おうとすると
意外に洗いづらかったりもする
高校生や大学生の頃
夕食の後の食器洗いは
わたしの仕事だった
家族が台所からいなくなった後で
ほかのことがやりたいのに
疲れているのに
低い流しにからだを傾けて洗う
現在のキッチンよりも低くできていて
背の高いわたしにはつらかった
背を丸めたり
腰を折ったり
股を開いて背丈を低めて洗う
家族の食器を洗うぐらい
担当しても何でもないことなのに
学生だったわたしにはつらかった
あの頃の父や母の茶碗や箸が
完全にではないが
部分的に
目に浮かぶ
なぜかわたしの食器は浮かんでこない
父や母のものばかり
完全にではないが
部分的に
浮かんでくる
そうして
触った時の感触は
けっこうはっきりと蘇ってくる
箸はこんなふうで
茶碗はこんなふうだったと
いま手に持っているかのように
けっこうリアルに浮かんでくる
しかし全容は見えないのだ
全容は見えないが
部分的には
浮かんでくる
箸の側面の色はこんなふうで
長さはこのぐらいで
茶碗はこのぐらいの厚さで
重さはこのぐらいでと
けっこうはっきり蘇ってくる
0 件のコメント:
コメントを投稿