2022年6月7日火曜日

ワーギルの霊にも私の霊にも

 

 

透明の犬が中央階段を上り下りしていると聞いたから

確かめに行ってみたら

犬の姿に似たゼルピロプロスだった

 

犬の姿に似た

といっても

ある面から見ればそう見えないこともない

という程度で

むしろ彗星メラムントから放出された雲状のガスが

わずか数日だけ取った

太古の軍艦ミズルメントルにこそ似ている

 

ミズルメントルには

私の娘の婚約者だったワーギルが艦長として乗り込み

二度と戻ってこなかったことがあった

 

娘の悲しみをひしひしと感じながら

大洋に臨む館で

初夏の美しい日々を過ごしたが

その地に咲き誇るゼツメラミスの花々が

思えば

唯一の慰めになってくれたものだった

 

私は娘が他の男を見つけて結婚してくれればと

ひそかに願ったものだが

娘はワーギルへの愛に生き

ずっと独身を貫いた

それはそれで

見事なものと思えた

 

息子たちは何人かの子に恵まれ

そのうちの女の子たちは

戻らないワーギルへの愛に生きる伯母への敬意を

各自の心に育んだ

ひとりは奔放な人生に旅立ち

歌い舞う高級娼婦のようになったが

その子の生んだ娘は我が家に引き取られて

なぜか

ワーギルへの愛に生きる大伯母に懐き

一緒に暮らすようになった

 

私の墓に

いつも最も美しい花束を捧げてくれるのは

娘とこの子となり

墓のかたわらで

たびたび

魂に染みるような歌を歌ってくれたものだった

 

ワーギルの霊にも

私の霊にも

とこしえの幸いのあらんことを






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