2022年7月26日火曜日

さるすべり



さるすべりの咲きようが

美しかった

 

美智子が

汗を拭いてくれた

 

十九で死んだ

弟の省吾の墓も

もう

近くだった

 

美智子には

省吾は

三歳上の兄にあたる

 

おまえは

十六だったね

省吾の

死んだ夏には?

 

ええ

友だちと水泳に行って

帰ったら

お母さんも

お手伝いの志乃さんも泣いていて…

 

それ以上は

くり返さなくてもよい

毎年

そのあたりまで

歌い出しのように

美智子は語る

 

省吾の死が

わたしたち兄弟に

どれほど

衝撃をもたらしたのか

どうか

 

たいしたことはない

男のわたしは

強がってみせようとしたが

衝撃の結果は

美智子の懐妊となって

現われ出た

 

それは

今となっては

やはり

認めておくべきだろう

 

省吾の墓の前に

もう

日菜子が来ていて

お父さん!

わたしを呼んだ

 

省吾の葬儀の時も

さるすべりは

美しく

咲き満ちていたはずだが

どうしても

思い出せない





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