さるすべりの咲きようが
美しかった
美智子が
汗を拭いてくれた
十九で死んだ
弟の省吾の墓も
もう
近くだった
美智子には
省吾は
三歳上の兄にあたる
おまえは
十六だったね
省吾の
死んだ夏には?
ええ
友だちと水泳に行って
帰ったら
お母さんも
お手伝いの志乃さんも泣いていて…
それ以上は
くり返さなくてもよい
毎年
そのあたりまで
歌い出しのように
美智子は語る
省吾の死が
わたしたち兄弟に
どれほど
衝撃をもたらしたのか
どうか
たいしたことはない
と
男のわたしは
強がってみせようとしたが
衝撃の結果は
美智子の懐妊となって
現われ出た
それは
今となっては
やはり
認めておくべきだろう
省吾の墓の前に
もう
日菜子が来ていて
お父さん!
と
わたしを呼んだ
省吾の葬儀の時も
さるすべりは
美しく
咲き満ちていたはずだが
どうしても
思い出せない
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