2022年7月26日火曜日

ひとり茶

  

また

ふいの雨となった

幽霊の嘉世子が

襖の裏へ

消えていった

 

みちるに電話したくなった

しかし

払暁なので

あまりに礼を欠くだろう

起こしてはいけない

 

台所へ立って

茶を淹れた

 

淹れた茶を

書斎まで持っていくか

迷った

 

家の廊下は長い

六畳ほどの部屋の前を

四つも通り

さらに

奥の暗い階段を上がっていく

ちょうど

階段の電気が切れていた

身ひとつで上り下りするのに問題はないが

盆に載せた茶を持って上っていくのは

すこし難儀だった

 

台所の椅子に座って

小さなランプひとつだけの明かりにして

熱い茶を啜った

払暁の

暗い台所でのひとり茶には

ただそれだけで

古雅な深みを

感じさせられる

 

すこし気持ちの寛いだところで

両肩にふたつの手がかかったかと思うと

つるつると

腕が胸のほうへ下りてきた

 

また

嘉世子かい?

 

そう聞くと

 

いいえ、比呂子

 

これもまた

懐かしい

愛しい声がして

わたしの股のあいだに

比呂子の頭が

ころり

と現われ

真っ赤に濡れた口を開けた





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