2022年9月1日木曜日

きみはしあわせだったんだねと

 


うちでは

スズムシが

鳴き続けている

 

昼も

夜も

朝も

夕べも

 

ひとが近づいても

もちろん

離れていても

 

うちのなかの

いろいろな物音にも

振動にも

だいたいは慣れたのだろう

 

飼育ケースの蓋をあけても

平気で

鳴いていたりする

 

餌を替えるのに

近くに指を持って行っても

平気で

鳴いていたりする

 

一匹で鳴くよりも

群れて

いっしょになって鳴くほうことのほうが

多い

 

そういうものなのだろうか

競いあっているのか

合唱が好きなのか

 

寝室で眠る時も

戸は開け放っているので

スズムシの鳴き声は

たっぷりと

耳に

脳に

押し寄せてくる

 

ふしぎな音色で

宇宙的

と言ってみたくさえなる

チェンバロの音色や

パイプオルガンの音色と競い合えるほどの

この世ならぬ音

 

贅沢な

この豊かな音色は

いつまでも忘れないだろうと思う

死ぬ時にも

スズムシのこの合唱を

毎晩

毎日

じぶんは聴く幸運に恵まれたのだ

と思うと

それだけでも

恵まれた生だったと

きっと

思えるだろう

 

死んだ後も

生まれ変わった後も

この音色の記憶は

きっと

魂についてまわるだろう

 

きみは

しあわせだったんだね

見えない世界の

種族の

だれからも

きっと

言われることだろう





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