2022年9月18日日曜日

日菜子さん

  

 

ほんとに思っていること

たまには

言ってみようかな

 

ことばは唯一の鏡である

ということ

 

唯一の羅針盤である

ということ

 

唯一のモーターである

ということ

 

なにをしようとするにも

じぶんの位置や

じぶんの顔つきなんかを

ちょっとでも

確かめたいだろう?

 

そんなとき

役に立ってくれる魔法の機械は

ことばしかない

 

じぶんのことを

ムリしてでも語ろうとすることばで

ある必要もない

 

「両切り煙草を吸ってみて咽せたあのカフェ…」とか

「新しいiPhone、もう内田さんは買うつもりなんだって」とか

「机のパソコンの後ろにどうしても埃が溜まる」とか

そんなものでもいいのだ

 

すべてのことばが

必ず正確に

きみの鏡となるから

羅針盤となるから

モーターとなるから

 

だから

どんなことばでもいい

きみは

書き止め続けるべきなのだ

 

大根

ごま油

長ネギ(もし新鮮なよいのがあったら)

豆腐

七味唐辛子の入れ替え用

 

などと記した

買い物メモの裏に

急に

意味もなく

「タコ」なんて

書いてしまいたくなったら

ちゃんと書くんだ

「タコ」と

 

単語を吟味もせずに

ある時

むかしの恋をきみは走り書きしたくなる

長いつやつやしていた髪の

日菜子さん

数ヶ月しかあいまいなつき合いが続かなかったが

しかし

初夏のたくさんの花々の色彩にあふれ

いい香りがどこにも漂っていた

あれらの時間の思い出を

日菜子さん

この名前にすっかり引き寄せ直そうとして

 

走り書きでいい

それを

人目にちょっと触れさせたらいい

Twitterでいい

見知らぬだれかさんが

偶然目に留める

日菜子さん

 

それだけでいいのだ

 

そこで

日菜子さん

詩となる

 

日菜子さん

詩が

はじまる





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