2022年9月18日日曜日

呼ばれている気がしたら


 

 

ちかごろ

あまり触れない本のならぶ棚に

近づいたら

呼ばれている気がした

 

一冊

手にとると

イヴ・ボヌフォワの詩集

『曲がった板』

 

ぱらぱら

ページをめくってみると

イヴ・ボヌフォワは

歌っていた

 

おお 詩よ

だれにも愛されなくなったきみのその名で

ぼくはきみを呼ばずにはおれない

こんにち ことばの廃墟のなかを

さまよっている人びとのなかにあって……*

 

そのとなりのページでも

イヴ・ボヌフォワは

歌っていた

 

おお 詩よ

ぼくは知っている

きみが軽蔑され否定されているのを

きみなんぞ劇にすぎず

さらには嘘っぱちだと人びとが見なしているのを

間違ったことばづかいを浴びせて

人びとがきみを打ちひしぐのを

きみが人びとにもたらす水は悪いものだと言われながらも

それでも飲もうとする人びとはおり

しかしながらきみの水にがっかりして

死のほうへと向きを変えていく人びとがいるのを……*

 

呼ばれている気がしたら

すなおに

向きを変えていくと

やっぱり

いい

 

死のほうへ

かならずしも

向かうばかりでも

ないから

 

 

 

 

*Yves Bonnefoy Dans le leurre des mots” dans « Les planches courbes »,  Mecure de France, 2001 






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