けたたたましい
などと言えば
もちろん
ふさわしくはないだろう
けれども
ひとまずは
そう言ってみておきたいような
豪勢な音を立てて
秋のはじめ
うちでは
鈴虫が鳴き続けている
羽をすりあわせ
渾身の力を使って
体を痙攣させ
揺らし続けながら
オスたちが音を出し続けるのを見ていると
「鳴く」という表現のしかたも
まったくふさわしくない
日本語は
こんな小さなところでも
なんと
現実や実態から乖離したままでいることか
とさびしくなる
あわれになる
言語表現は
まことにあわれな領域である
表現ということに
やみくもな価値づけをする人びとは
鈴虫のこんな“音立て”を
平然と「鳴く」と呼んで恥じない
わたくしは
恥じるべきだといつも思う
そんな恥ずべき表現の無限の寄せ木細工が
言語表現だの
文化だの言われているが
ただ黙って
言いようもないままに
鈴虫たちの”音立て”も
聞いているべき
わきで見続けているべき
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