隅田川のほとりで
死後も来世も覚え続けているだろうような
うつくしい生活を送ったことがあった
買い物には
よく
北本通り沿いのタジマに行って
そこは
どこか時代に乗り損ねた
昭和の雰囲気を引き摺ったスーパーで
レジ係のオバサンたちも
どこかトロくて
三軒茶屋の駅近くから越してきたわたしは
はじめ
ひどくグズグズしている感じが
苛立たしいほどだった
しかし
それまで渋谷や
新宿や
三軒茶屋や下北沢のペースを
心の深くまで染み込ませて生きてきたわたしは
そうした騒がしい喧噪慣れを
この土地で
剥がれ落ちるままに
してみた
タジマの裏手
荷物を運び込むスーパーの裏側では
不思議なことに
夏場や秋はもちろん
冬の寒い時期になっても
虫の声がたいそう賑やかだった
コオロギではなく
ウマオイやキリギリスのような声なのだが
どうしてそんな虫の声がし続けるのか
わからなかったし
いまもわからない
もうわからない
その地をわたしが離れて
すぐに
タジマはなくなって
ジャパンミート卸売り市場というスーパーに
生まれ変わった
再訪した時に
一度入ってみたことがあるが
ムダだらけだったタジマの品の置き方と違い
効果的にわかりやすく多量の商品が置かれていて
スーパーとしてはレベルが上だと見えたが
あの鄙びた空気感は失せて
なんだか
わたしのいるべき場所ではなくなってしまったと
感じた
ウマオイやキリギリスの声に溢れていた
あのスーパー裏手は見なかったが
もちろん
虫たちの居場所などなくなってしまっただろう
こうして消えていくものや
風景を
嘆いてみせるのは
昔から詩歌の流儀のひとつだが
わたしはしかし
こう言ってみたい
スーパーの裏手の商品搬入口のあたりで
季節を問わず
ウマオイやキリギリスのような声の虫が
盛大に豪勢に大音声で
鳴き続けていた事実があって
それは
こうして記している
わたしの中に現実そのものとして
ずっと続いている
と
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