2022年9月29日木曜日

其無正、正復爲奇、善復爲妖

 


読書家というものがたいして信頼できないのは

読書というものが

ナイフや他の武器のような

あつかいのじつに困難なものだからだ

使い手によって

いかようにも効果が変わってしまう

 

老子など

あたりまえに読んでいるよ

という人でも

後半の勘どころの

あの鋭利さを

ちゃんと読んで

他人にサッと伝えてくれたりする人は

じつに少ない

 

たとえば

第五十八章

 

災禍には幸福が寄りそっており

幸福には災禍がひそんでいる

だれがその窮極を知っていようか

 

禍兮福之所倚、

福兮禍之所伏。

孰知其極。

 

そもそも絶対的正常などはないのだ

正常はまた異常になり

善事はまた妖(まがごと)になる

人々がこの相対の道に迷っているのも

まことに久しいことだ*

 

其無正。

正復爲奇、

善復爲妖。

人之迷、其日固久。

 

 

現代においてなら

この第五十八章

第三章あたりに入れ直したほうがよい

 

今の時代でなら

第五十八章だよね

と言ってくれない読書家というのは

まったく

信頼できない

 

 


 

 

*『老子』(蜂屋邦夫訳注、岩波文庫、2008年)





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