2022年10月20日木曜日

帆をあげたる舟

 

 

来る冬。

まだ仕舞っていない団扇。

ヴェランダに出したままのアレカヤシ。

すぐ出せるが箪笥の冬物の引出しにしわくちゃになっているセーター。

夏も冬もズボンはだいたい同じだが夏物の短パンはそろそろ。

かなり死んだがメスばかりまだ生き残りのいる鈴虫。

冷蔵庫に入れなくてもよくなった飲みかけのワイン。

玉葱も馬鈴薯ももう室内に出しっぱなしでいい。

家の中でもTシャツより長袖のシャツを選ぶようになって。

足先はいつのまにか冷え始めているのにまだソックスを履かない。

急に温度が冷えた時のために一応スカーフをバッグに潜ます。

居酒屋ではおでんを求める客が出てきている。

朝少し冷えたので薄いコートを着て出ると駅では蒸して困る。

いつのまにか萩の花がちょんちょん口紅をさしている。

まだ草木は色づかず紅葉の頃もまだまだ遠い。

タンクから来て蛇口から出る水が下がった気温の中で温かい。

 

来る冬。

いなくなった人。

なくなった物。

私からいなくなった私。

私の内からなくなった何か。

 

ただ過ぎに過ぐる物。

帆をあげたる舟。

人の齢。

春夏秋冬。

清少納言『枕草子』






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