誰かな、私を呼ぶのは?
ゲーテ 『ファウスト』 悲劇第一部 夜
夢のなかとはいえ
驚くほどうまく宙を飛べていたので
目覚めてからも
満ち足りた思いがあった
博物館や美術館のような
何階もある大きな建物のなかに
魚や水生生物の飼育プールや
池や水槽がたくさんあって
25メートルプールのような
けっこう大きなのもいくつもある
それらの上をすいすい飛び
エスカレーターなどには乗らず
5階から1階まで急降下したり
そこからまた3階へ飛び上がったりする
水面近くを滑空するのは楽しくて
鼻先を水草の葉先にかすらせ
飼育プールの端から端まで
けっこうな速度で飛び抜けていったりする
上昇したり下降したりするのは
かなり容易ですいすいとこなせるが
宙に停止するのだけはうまくできない
停止するとどんどん降下していく
なので降りる時は停止するようにして
高さをすこしずつ下げていく
上がる時も垂直に急発進はなぜか困難で
前方に飛びながら上昇していくことになる
まだ技術が未熟だからこうなるのか
それとも空中浮遊はこういうものなのか
館内を飛びまわりながら反省したりする
1階のエントランスに飛んで行ったら
警備の女性警官がふたり座っていた
彼女たちの前まで宙を飛んできたので
飛ばないでくださいとか言われるかな
ちょっと危ぶんだが
べつに注意されることはなかった
ほかの人の邪魔にならなければ
宙を飛んで観覧してもいいらしい
だいたい人の頭の上のあたりは
ほかに誰も飛んでいないので
混むこともないし移動はスムーズだ
たまに吊り下がっている電灯があって
それらに当らないように注意すればよい
エントランスの女性警官らの前で
いったん廊下の地面に降りてみたので
すこし小走りにしながらまた飛び上がり
3メートルほどで人びとの上に浮いた
しばらく1階部分をあちこち覗き
エスカレーターの隙間を蛇のように上がって
2階へ3階へと上がっていき
一気に5階まで上ってしまって
よく見ていなかった部屋にいちいち入った
宙を飛んでいると水の上からは観察できるが
飼育水槽を横からのんびりは見られない
ちょっと廊下に降り足を地につけて
いっぱいある水槽を横から見ようかな
そう思って着地した瞬間に足から腰に生じた
飛んでいるのとは違う違和感が
世界移りのスイッチを心身のどこかで捻ってしまい
あっという間にこっちの世界へ目覚めてしまった
もうちょっと飛んでいればよかったかなあ
そう思ってすこし後悔したけれども
どの世界にいて宙を飛んでいてさえ
ものを見るのに100%満足できるような見方は
いちどにはできないものなんだと思い直し
いろいろ不都合はつきないわけだなと納得した
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