2022年11月21日月曜日

いろいろ不都合はつきない


 

誰かな、私を呼ぶのは?

ゲーテ 『ファウスト』 悲劇第一部 夜

 

 


夢のなかとはいえ

驚くほどうまく宙を飛べていたので

目覚めてからも

満ち足りた思いがあった

 

博物館や美術館のような

何階もある大きな建物のなかに

魚や水生生物の飼育プールや

池や水槽がたくさんあって

25メートルプールのような

けっこう大きなのもいくつもある

 

それらの上をすいすい飛び

エスカレーターなどには乗らず

5階から1階まで急降下したり

そこからまた3階へ飛び上がったりする

水面近くを滑空するのは楽しくて

鼻先を水草の葉先にかすらせ

飼育プールの端から端まで

けっこうな速度で飛び抜けていったりする

 

上昇したり下降したりするのは

かなり容易ですいすいとこなせるが

宙に停止するのだけはうまくできない

停止するとどんどん降下していく

なので降りる時は停止するようにして

高さをすこしずつ下げていく

上がる時も垂直に急発進はなぜか困難で

前方に飛びながら上昇していくことになる

まだ技術が未熟だからこうなるのか

それとも空中浮遊はこういうものなのか

館内を飛びまわりながら反省したりする

 

1階のエントランスに飛んで行ったら

警備の女性警官がふたり座っていた

彼女たちの前まで宙を飛んできたので

飛ばないでくださいとか言われるかな

ちょっと危ぶんだが

べつに注意されることはなかった

ほかの人の邪魔にならなければ

宙を飛んで観覧してもいいらしい

だいたい人の頭の上のあたりは

ほかに誰も飛んでいないので

混むこともないし移動はスムーズだ

たまに吊り下がっている電灯があって

それらに当らないように注意すればよい

 

エントランスの女性警官らの前で

いったん廊下の地面に降りてみたので

すこし小走りにしながらまた飛び上がり

3メートルほどで人びとの上に浮いた

しばらく1階部分をあちこち覗き

エスカレーターの隙間を蛇のように上がって

2階へ3階へと上がっていき

一気に5階まで上ってしまって

よく見ていなかった部屋にいちいち入った

 

宙を飛んでいると水の上からは観察できるが

飼育水槽を横からのんびりは見られない

ちょっと廊下に降り足を地につけて

いっぱいある水槽を横から見ようかな

そう思って着地した瞬間に足から腰に生じた

飛んでいるのとは違う違和感が

世界移りのスイッチを心身のどこかで捻ってしまい

あっという間にこっちの世界へ目覚めてしまった

もうちょっと飛んでいればよかったかなあ

そう思ってすこし後悔したけれども

どの世界にいて宙を飛んでいてさえ

ものを見るのに100%満足できるような見方は

いちどにはできないものなんだと思い直し

いろいろ不都合はつきないわけだなと納得した

 

 




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