2023年1月15日日曜日

CASTALIA、NADIA、“Apparition”


 

 

YMOが流行っていた頃

インベーダーゲームの効果音でできた

非人間的なポップスを

どこへ行ってもさんざん聴かされるので

イヤだなあ

イヤだなあ

イヤだなあ

思い続けていた

 

あの時期を象徴する曲は

やっぱり「RYDEEN」だろう

と言う人は多い

 

江戸後期

伝説的な力士「雷電爲右エ門」というのがいて

そこから

世界に影響を与えた浮世絵のイメージを引っぱり出してきて

「自分達の音楽も世界に影響を与えることと重ね合わせ」るべく

元々のタイトルを『雷電』と表記したらしい

 

「日本的なディスコサウンド」を目指して作られたので

江戸時代の力士から引っぱり出してきた「雷電」というタイトルは

なかなか

ふさわしかった

 

高橋幸宏が

居酒屋ないしは(当時流行していた)カフェバーで

軽く歌ってみた鼻歌を

坂本龍一が耳にし

気に入ったので

その場にあった紙ナプキンに採譜して書きとめ

翌日

スタジオで原型を完成させた

 

そんな伝説もある

 

だが

ちょうど

『勇者ライディーン』が海外で受けていた頃なので

細野晴臣が

通りのよい「ライディーン」に

タイトル名を変更した

 

当時は

シンセサイザーの音色を作るサウンドデザイナー

という職業が存在していて

YMOの音のデザインは

松武秀樹が行なっていた

しかし

RYDEEN」の場合は

坂本龍一が演奏するシンセサイザー「アープ・オデッセイ」による

このシンセサイザーの音色が

RYDEEN」の88%を作っている

 

基本リズムは

疾駆する馬の蹄の音であり

これは

細野晴臣が愛用したKORG PS-3100という機材で構成された

初期YouTubeの覇者であったガンナムスタイルと同じである

 

しかし

YMO嫌いのぼくにとって

YMOといえば

CASTALIA

 

1979年9月25日発売の

「ソリッド・ステート・サヴァイヴァー」収録の

坂本龍一作曲のもの

 

いわゆるYMOファンたちの多くが

あえて無視したり

非難したりすることの多い

この曲に

ぼくは衝撃を受けた

 

ぼんやりした

遠い

深い霧のむこうから

ゆっくりと

確実に近づいてくる運命の女神のようなものを

ぼくはここに聞き取った

 

この曲は

写真家・沢渡朔の代表作写真集「NADIA」(1973の衝撃と重なって

1970年代終わりから1980年代のぼくの感性を

つよく導くものとなった

 

CASTALIA

NADIA」のことは

友人たちにもほとんど語ることなく

ぼくの内面の館の

秘密

というほどではないものの

ぼくだけが

たまに訪れる小さな書庫に通じる廊下の雰囲気を構成していた

青春

というものが(本当に)あるならば

ぼくだけの知るこの雰囲気が

ぼくにとっては

それだった

青春だった

 

後になって

マラルメの「あらわれ(Apparition)」を読んでいた時

CASTALIAと「NADIA」がもたらした衝撃は

マラルメとの正面からの遭遇の予兆だった

とわかった

爾後

ぼくは

CASTALIAも「NADIA」も捨てて

マラルメの「あらわれ」だけを読み返せばよくなった

 

J’errais donc, l’œil rivé sur le pavé vieilli
Quand avec du soleil aux cheveux, dans la rue
Et dans le soir, tu m’es en riant apparue
Et j’ai cru voir la fée au chapeau de clarté
Qui jadis sur mes beaux sommeils d’enfant gâté
Passait, laissant toujours de ses mains mal fermées
Neiger de blancs bouquets d’étoiles parfumées.*

 

そう、彷徨っていたのだ、ぼくは

古びた舗石に

釘付けになったように

目を落して。

そんな時

あのゆうぐれ

笑いながら

きみは現われた。

髪には日のひかりを煌めかせ

道のなかに

ふいに。

ひかりの帽子をかぶった妖精を見たのか?

とぼくは思った

甘やかされたあの子どもの頃の

うつくしい夢の数々の上を

通り過ぎていった

あの妖精…

ゆるく握った手から

いつも

香りたかい星々の白い花束を

雪のように降らせていた

あの妖精…




 

* Stéphane Mallarmé Apparition







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