名は言えないし
言いたくもないが
(…と『ドン・キホーテ』の冒頭のように言っておく)
とある超底辺大学の
とても出来の悪いクラスでも
フランス語の初歩を
教えている
どれだけ出来ないか
というと
ついこの間など
「綴り」という日本語を知らない学生が
いたほどだ
練習問題の答え合わせで
学生たちに当てて答えさせていたら
自分がノートに書いた解答が読めない
という者がいた
教科書から引き写しで問題を解いたりすると
ときどきこういうことはある
「じゃあ、綴りを言ってごらん」
と聞いたら
「は?」
と聞き返してくる
「綴りを言ってくれれば、黒板に書いていくよ」
ともう一度言っても
「は?」
と言う
こちらの言い方が
そんなにわかりづらかったのかな?
と思い
「綴りを言ってごらん」
とさらにもう一度言うと
「ツヅリって、なんですか?」
と言う
「え? ツヅリって、綴りだよ」
「ツヅリって、知らないです」
「え? 単語とか書くのに文字を並べていくでしょ?」
「はい」
「それが綴り」
「あ? はい!」
こうして
やっと「ツヅリ」とはなにか?
がその学生とのやりとりにおいて一応解明されたのだが
だいぶ前のある年など
アルファベットを知らない学生もいた
簡単な文を読ませてみたら
ある箇所で引っかかって進まない
「どうしたの?」
と聞くと
単語が読めないという
「そう? どの単語? アルファベットでどう書いてある?」
とさらに聞いたら
「pの反対みたいな字から始まる単語です」
と言うので
qで始まる単語が読めないと判明した
単語が読めないのは
まだいい
それを学ぶのがこのクラスなのだから
問題は
qをこの学生が知らなかったことだ
pは知っていて
pの反対みたいな字と表現したわけだが
小学生でもなければ中学生でもなく
いやしくも「大学生」の名で遇されている学生の立場で
qを知らないというのは
いったいどういう経緯を辿って
この教室に潜入して来れたのであろうかと
一瞬
つらつらと
彼の亡命者なみの長旅を想像してしまった
野球部の学生だったから
一般的な入試は免除されて推薦で入ってきたのだろうが
それにしたって
アルファベットくらい
テストしてやってくれよ
と
語学の教員は思ってしまうのであった
0 件のコメント:
コメントを投稿