2023年6月21日水曜日

満潮の潮に洗われて崩れていく砂の城


 

 

列車時刻表には、私の乗る予定のない列車名が並んでいる。

  寺山修司

 

 

 

大きめの書店の

文庫本のならぶ棚のところを

つらつら

つらつら

背表紙を見ながら歩いてみると

なんてたくさんの本があるのだろうと

あたりまえのことなのに

いつも

驚き直してしまう

 

寺山修司は

「列車時刻表には

私の乗る予定のない列車名が

並んでいる」

と書いたが

大きめの書店には

いつも

私の読む余裕のない本が

並んでいる

 

本の並ぶ光景を見ると

本が好きだとか

読書家だとか

そんな自己認識や自己紹介が

むなしいものにしか

思えない

 

自尊心や生き甲斐や自慢などといった

気持ちの流れの最後には

数の競い合いが来る

 

「で、何千冊読んだの?」

「で、何万冊読んだの?」

「で、何億冊読んだの?」

 

これだけでは終わらず

「で、ぜんぶ覚えているの?」

が来れば

人間であるかぎり

誰もが

満潮の潮に洗われて崩れていく

砂の城でしか

なくなる

 

 




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