2023年6月6日火曜日

人間が練れて来たということだろうか

 

 

多色ボールペンとか

多機能ボールペンと呼ぶのだろうか

 

以前たまたま買ってみて

ずっと使っていたプラチナ製のピノバというペン

黒インクが切れてきたので

替芯を買いたくなった

 

大手町のオワゾの丸善あたりで尋ねてみようかと思い

歩いて向かっていく途中で

もっと近場の

神保町の文具店で聞いてみてもいいと思いつき

すずらん通りの文房具屋に入った

 

差し出しながら

「このペンの替芯ありますか?」

と聞くと

ペンを握って目に近づけて見ながら

「どこの?」

と聞いてくるので

「プラチナのです」

と答えると

「プラチナのなんか

うちは扱ってないから……」

と言って

ガラスケースの上でほとんど投げて返して来た

「ああ、そうですか」

と受け取って

「どうも」

と言って店を出た

 

すずらん通りには

もっと靖国通りに近いほうに

文房堂という画材店があり文房具も置いている

明治20年創業だそうで

絵を描く人たちには知られていて

ちょっと店内を見てまわるだけでも

いろいろなことが知れて面白い

 

そこに行ってみて

文房具のある二階に上がり

店員にペンを差し出して

替芯があるかどうか聞いてみた

 

女性の店員は

パソコンでいろいろ探して

替芯関連のデータをあちこち見つめ

それから

店内から替芯の包みを持ってきて

袋を破いて芯を出し

入れ替えてみてくれた

そうして

「プラチナのものではないですけれど

これなら規格がいっしょなので

大丈夫です」

と見せてくれた

 

その後

0.5もあれば0.7もあるということで

どうせなら少し太めの0.7を貰おうと思い

それを頼むと

MITSUBISHI製のものを持ってきて

「これも同じ規格なので

使えます」

と見せてくれたので

こちらのものを

黒赤あわせて4本買っていくことにした

 

商品知識といい

規格への対応のしかたといい

的確だし

商品を包装から出して試してくれるような

客への配慮もすごい

 

こういうわけで

家に近い神保町で買い物は済んでしまったわけだが

それでも散策をかねて

大手町や丸の内まで歩いて

オワゾの丸善を見て来ようということで

その後も歩き続けた

大手町や丸の内といっても

神保町からは目と鼻の先なので

15分や20分で着く

 

丸善に行けば

もちろん

必要がなくても本を見てまわる

洋書ばかり見るのだが

丸善のフランス語本の揃えかたは

目を疑うばかりのいい加減な選び方で

それゆえの思いもしないめっけ物もたまにはあるが

ほとんどは

なんの発見もない

しかたなしに英語の本もあれこれ見てまわるが

おかげで

ジェフリー・アーチャーの『ケインとアベル』の

けっこう分厚い英語版を買ってしまった

 

もしストーリーテーリングにノーベル賞があったならば

ジェフリー・アーチャーにノーベル賞が与えられないはずはない

という定評のある大才だが

なにせ分厚い小説を多作してきた人なので

読書の幅を広げるように努めていても

英語で彼の代表作を読むのもただ事ではない

『ケインとアベル』はドラマにもなった有名な本で

話はだいたい知っているが

日本の湿っけたジュンブンガクと違って

世界レベルの魅力を最初の章から立ち上げる秘訣が知りたくて

ちょうど手に取った機会だから

買っていこうかと思った

 

ところで

ジェフリー・アーチャーの『ケインとアベル』で終章となった

この日の小さな冒険の発端となった

プラチナ万年筆製のピノバというペンのことだが

黒赤のボールペンに加えシャープペンがついていて

外出の際に持ち歩いている

ピノバといっても

けっこう高いものもあるが

使っているのは廉価版のほうである

 

家で使うのならば

黒も赤も一本ずつ別々になっているものが便利だが

外にいる時には

持って出るペン類は一本でも少なくしたい

そういう目的から

多色ボールペンは常用してきていたが

新宿駅の京王デパートに入っていた丸善で

偶然ピノバを見つけて

軸のフロスティブルーの塗装色が気に入って

シルキーレッドのものと合わせて

色違いを二本買った

 

書き味さえよければペンはどこの会社のものでもいい

とはいえ

ペンというのはなにかと無くしやすいから

普段使いのものにあまり値の張るものを買うべきではないし

かといって

持った場合の重さや雰囲気は自分にとって少しでもよいほうがいい

などなどといった

小さな要求をクリアして気に入ったのが

たまたまプラチナ製のピノバだった

というだけのことではある

 

そういえば

「プラチナのなんか

うちは扱ってないから……」

と言って

ガラスケースの上でほとんど投げて返して来た

神保町すずらん通りの文具店は

ミヤタという店だった

 

プラチナと

どんな悶着があったか知らないが

替芯を探しに来た客にこんな言い方をして

客の持ち物を投げるようにして返すなど

商店としては言語道断だろう

 

こういう時には

瞬間湯沸かし器のように激怒する性質の私だったのに

今回このミヤタでは

穏やかに「ああ、そうですか」と受け取り

「どうも」

とまでつけ加えて店を出たのだから

私も人間が練れて来た

ということだろうか

 

 





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