2023年6月8日木曜日

すべてうき世を

 

 

 

「恋の歌とて詠ませ給ひける」

『風雅和歌集』に

詞書き

されているものの

世のこと全般に視野は及んでいるのではないか

この歌

 

大方の世は安げなし人は憂しわが身いづくにしばし置かまし

 

 

これも

「恋の歌とて」

『玉葉和歌集』にあるが

もっとひろく

捉えて

よいはずだろう

 

頼めねば人やはうきと思ひなせど今宵もつひにまた明けにけり

 

くりかえし

くりかえし

憂さを詠んだ

永福門院

人も憂し

世も憂し

すべて憂し

 

そして

この極点に達する

 

ものごとに愁へにもるる色もなしすべてうき世を秋の夕暮 *

 

「すべてうき世」

詠んだことで

あらゆる救いのなさをすでに全身の肌に確かめつくし

場所の移動の意義も

地位のようなものの上昇の意義も

衣食住を極める意義も

過ごしやすい季節を迎えるようなことの意義さえも

心の蔵から

剥脱するがままにしてしまって

いっそ

爽やかになって

しまっている

 

そうして

というものは

意義も

意味もなしに

起こる

 

ただ

起こる

 

夕立の雲も残らず空晴れてすだれをのぼる宵の月影 **

 

 

 



 

*玉葉和歌集

**永福門院百番御自歌合

 

 





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