2023年7月20日木曜日

本物の夏


 

気温が37度に達したという日も

クーラーをつけなかった

 

家のなかにいると

ときどき涼風も入るし

空気の流れもけっこうあるので

さほどは暑く感じなかったからでもあるが

つけようと思えばつけられるクーラーがあるが使わない

という微妙な流儀を

じぶんだけでも守りたい

と思っている

からでも

ある

 

これは

倫理でも

節約でもない

ふいに電気が奪われる時が

かならず来るだろう

と思っているので

気がまえや体の調整の上での

つつましい準備だ

 

いくらなんでも

空調設備というものに

現代社会は

馴れ過ぎている

寄りかかり過ぎている

甘えすぎている

 

クーラーなしで真夏を過ごした

幼少期や

青年時代を持っているので

暑い空気の中での数学の問題解きや

英語の文法練習や

ドストエフスキーの長編の読書などこそ

地上の人間としては

本物の体験だと思える

 

学校帰りに

郵便局の本局だけに入っていた

巨大なクーラーの冷風の前でシャツをめくり上げ

胸をいっぱいにはだけて

しばし極楽の時間を味わった

あれらの夏こそが

本物の夏だと思える

 




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