気温が37度に達したという日も
クーラーをつけなかった
家のなかにいると
ときどき涼風も入るし
空気の流れもけっこうあるので
さほどは暑く感じなかったからでもあるが
つけようと思えばつけられるクーラーがあるが使わない
という微妙な流儀を
じぶんだけでも守りたい
と思っている
からでも
ある
これは
倫理でも
節約でもない
ふいに電気が奪われる時が
かならず来るだろう
と思っているので
気がまえや体の調整の上での
つつましい準備だ
いくらなんでも
空調設備というものに
現代社会は
馴れ過ぎている
寄りかかり過ぎている
甘えすぎている
クーラーなしで真夏を過ごした
幼少期や
青年時代を持っているので
暑い空気の中での数学の問題解きや
英語の文法練習や
ドストエフスキーの長編の読書などこそ
地上の人間としては
本物の体験だと思える
学校帰りに
郵便局の本局だけに入っていた
巨大なクーラーの冷風の前でシャツをめくり上げ
胸をいっぱいにはだけて
しばし極楽の時間を味わった
あれらの夏こそが
本物の夏だと思える
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