2023年8月6日日曜日

「若者よ、あなたに言う。起きなさい」

 

 

天使の本性は時間にけっして触れることがない。

マイスター・エックハルト

 

 

 

「若者よ、

あなたに言う。

起きなさい」*

 

ルカによる福音書には

このようにある

 

マイスター・エックハルトは

これを用いながら

いつもながらに

霊と神の関係の構造を

解説していく

 

魂に帰属するすべての力は

老いることがない

とエックハルトは言う

 

自分の起源に近くあるものが

「若い」のだと言う

 

あらゆる被造物の起源は神だから

神に近いものほど

「若い」

 

神の知性の内では

ひとはみな「若い」

この知性の力の内で働くほど

ひとは自分の誕生に近づく

自分の誕生に近いものが

「若い」のである

魂からの最初の発出が知性であり

その後に意志が続き

さらに他の諸力が続く**

 

「起きなさい」

とは

どんな意味だろうか?

とマイスター・エックハルトは

問う

 

それは

わざから起き上がって

魂の上へ

自分自身の内へ

「あなたを置きなさい」

という意味である**

 

マイスター・エックハルトの説教は

本質に一気にもぐり込んで

いつも深く強く端的に語るものだが

時に概念相互の関係性が掴みづらい

ここでも

「わざから起き上がって」とは

どういう意味か

わかりやすくはない

 

ここは

ジャンヌ・アンスレ-ユスタッシュのフランス語訳では

 

「若者よ、起きよ!」 

この「起きよ!」はなにを意味するか?

「神の御わざから起きよ(御わざを捨て置け)

そして

魂みずから立って、あり続けよ!」***

 

に近くなる

 

神の御わざとは

あらゆる被造物のことだが

エックハルトがつねづね言うように

無である

物質も精神作用も場所も時間も

すべては無でしかない

 

他方

魂は神そのものの分流であり

有なるものは神しかないので

魂も有である

 

人間が

みずからの内なる神である魂そのものに純粋になって

魂みずから立って

あれ!

というのは

神の御わざである

無である

被造物の衣のまとい付きを捨てて

純一に神であれ!

ということで

矛盾はない

 

しかし

エックハルトは他所では

神は被造物を作った後に去ったのではなく

それらの内に留まった

とも言っているので

そうなると

被造物は無ではないはずであり

エックハルトの説教の内に矛盾が生じる

 

マイスター・エックハルト読解の要所は

こういうところにある

 

 

 

 

*ルカによる福音書第7章第14

**マイスター・エックハルト「神が魂の内に子を産むということについて」(説教43

。岩波文庫『エックハルト説教集』(田島照久編訳)。

***Maiître Echkhart « Sermons »**, Présentation et traduction de Jeanne Ancelet-Hustache, Edition du Seuil, Paris,1978.





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