2023年8月28日月曜日

『ティファニーで朝食を』のオープニング・シーン


 

 

『ティファニーで朝食を』の

オープニング・シーンは

美しい

 

多くの映画の冒頭のなかでもとりわけ美しいもので

オードリー・ヘップバーンのもっともきれいな時が

撮られている

 

https://youtu.be/JuimqB3ofEI?si=NTxJTQgPeFT-ZEsY

 

ヘップバーンは身長169

体重は一生を通じて49.8953.97kgだったというが

このオープニングでは

髪をかなりアップにしているので

180㎝近くに見えている

はず

 

低めのヒールを履いているので

足元にもたつきが少し出るが

低いヒールを履いているのは

このヒロインのやや怪しい生活ぶりを表している

今でいう「援助交際」のようなことをしたり

ちょっとした嘘で

男たちから金を巻き上げて生きている娘なのだ

 

身長174㎝のローレン・バコールがよく演じるような

しっかりした自我と意志を持った女性の

堂々たる長身ぶりに見せないところが

この映画のオープニングには必要だった

 

この撮影日時はわかっていて

1960102

日曜日の夜明け前

 

場所は

もちろん

ニューヨークのティファニー前

 

デニッシュが嫌いだったオードリー・ヘプバーンは

代わりにコーンにのったアイスクリームを監督に頼んだそうだが

監督ブレイク・エドワーズは拒否し

デニッシュを齧らせた

 

ヘップバーン演じるヒロインのホリー・ゴライトリーは

18歳から19歳のはずだが

ヘップバーンはこの時31歳で

演じるには

じつは無理がある

 

ミスキャストだと

原作者のトルーマン・カポーティーが

怒ったのもわかる

 

カメラは残酷で

タクシーから降りたヘップバーンの背中が

すでに18歳や19歳の女性の背ではないことを

正確に写し取っている

 

それにしても

ヘンリー・マンシーニ作曲の「ムーン・リヴァー」にあわせて走ってくる

黄色いタクシーの動きも

それが止まるところも

また去っていくところも

美しい

 

タクシーが走り去った後

ヘップバーンが一瞬立ち止まる光景も

奇跡的な美しさ

 

ティファニー正面に立って

ゲートの上の文字を見上げるヘップバーンを

背後下から見上げて撮り

その後

右へ移動させていく控えめな運動性の描き込みも

素晴らしい

 

そして

ウィンドウに歩み寄っていくヘップバーンの左に

ゴールドで

「オードリー・ヘップバーン」の名を出し

その後のクレジットタイトルもみな

ゴールドで表示していく

美しさ

 

クレジットタイトルのゴールド色は

夜明けの薄暗い街にタクシーが引き込んできたイエローを受けとめ

繋いでいっている

 

あらゆるカラー映画には

色彩のメロディーや物語の層が必ず重ね合わされているが

ゴダールやベルトルッチや小津安二郎の映画などで顕著に観察される)

この映画でも

冒頭から色彩の物語層を見せてきている

 

映像として美しいとはいえ

ヘップバーン演じるヒロインの歩き方には

ちょっとした幼さが見られ

デニッシュを取り出したり齧ったりする際に

もぎこちなさがあって

この娘が生活に長けておらず

精神的にも未熟なことが見えてくるしくみに

なっている

 

一見

華やかな大人のパーティーから帰ってきたかのようなドレス姿でも

高級ブランドにふさわしいような

「大人」の女性ではないのが

わかる

 

この点をしっかり観察すれば

彼女が早朝のティファニー前で齧っているデニッシュこそが

まさに

「ティファニーで朝食を」

なのだとわかり

映画『ティファニーで朝食を』が

非常に凝った複雑な騙し絵の提示から始まる映画なのだ

わかってくることに

なる







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