2023年12月3日日曜日

全身全霊でレーダーにだけはなろうとして


 


文芸は書きてぞ卑し書かずして思ふ百語に揺れ立つ黄菅

                                                                           安永蕗子

 


 


わたしは詩というものに

ずいぶんつよい夢と期待とあこがれを

ほんとうは持っているので

じぶんが書くものを詩などとは

まったく呼べない

 

たしかにわかち書きの

詩のかたちをした書きかたをするけれど

ほかの形式ではぜったいに得がたい味わいを

詩なら湛えていないといけないと思うし

そんな味わいがじぶんの書くものにあるとは

どうにも思えないものだから

やっぱり詩を書いていますなんて

そんな厚顔無恥の極みみたいなことは言えない

 

この味わいというものがむずかしくて

むかしの詩にあった味わいが普遍的かというと

いまの時代のたいていのひとには

ぜんぜん通じなかったりする

つい数年前においしく思えた言葉でさえ

もう色褪せて見えたりもする

繊細さはなにかといいことのように言われるが

あまり繊細に緻密にやられると

こちらの息がつまるようでつらかったりする

かえって気の利かないぶっきらぼうな言辞のほうが

世の荒れ模様のなかでは

意外と頼れる感じの魅力を発揮したりもする

 

わたしは詩というものに

ずいぶんつよい夢と期待とあこがれを

ほんとうは持っているので

どうしようもないほど徹底してきびしく

胸をいつも意識して切開してみているかのように

寛大さと視野の広さと吟味の努力をじぶんに強いている

だからといってどうだということにもならないが

全身全霊でレーダーにだけはなろうとして

いつも詩のほうへ目も耳も顔もからだも向けている

 





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