2024年1月8日月曜日

ひとりだけでうすくチーズを切って

 

 

 

レッドチェダーチーズを

うすく

うすく切って

口に運ぶ

 

うすいほうが

うまい

 

チーズが食べたくなるときは

あぶらがほしいとき

ではなくて

この味わいがほしいときかな

と気づき直す

 

ひとりだけで

うすくチーズを切って

ゆっくり食べるのが

好き

 

市川純江さんも

よく

言っていた

 

むかしむかしの

勤め先の

同僚

 

よく

いっしょに会って

友だちに

なっていた

 

居酒屋では

グレープフルーツサワーを

30杯ぐらいずつ

飲みながら

話し続けたこともある

グレープフルーツの作用からか

ふたりとも

まったく酔わなかったが

ちゃんと

サワーは入っていたんだろうか?

 

家にも行って

飲んだり

料理を作ってくれたりも

したが

こいびとではなく

友だちだった

 

ぼくには詳しくは言いたがらない

婦人病に罹っていて

月にいちどは

東京の大病院に通っていた

 

そんな時には

病院のかえりに

渋谷や

新宿で会って

インド料理店に行ったりした

 

何年も友だちだった後

市川純江さんは

公立中学校の先生になるために

故郷の群馬県に帰った

 

本当は

故郷には帰りたくない

と言っていた

 

子どもの頃

酒乱だった父親が家で暴れると

本当に大変だった

殴られたり

蹴られたりするし

家の中をめちゃめちゃにするので

父親が暴れはじめると

弟といっしょに家から外に逃げ出て

こわくて震えながら

あちこちの物陰に隠れて

静かになるまで待った

小中学校時代は

いつも

そんなふうに過ぎていった

 

なんどか

そんなことを

聞いた

 

書道の有段者だったので

字がうまく

特にひらがなが

きれいだった

 

年賀状では

毎年

きれいなひらがなで

書いてきてくれた

 

東京に来るときは

また

会いましょう

よく書き送ったが

そのうち

急に

年賀状は来なくなった

 

もちろん

ことしも

来なかった

 

去年も

一昨年も

来なかった

 

ひとりだけで

うすくチーズを切って

ゆっくり食べるのが

好き

言っていた

 






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