「こんな遊びも
あんな遊びも
みんなやってみた」
こんな文が
ル・クレジオの『愛する大地』に
あった
豊崎光一の訳で
読んだ
いま掲げた訳は
うろおぼえなので
ちょっと
間違っているかもしれないが
だいたいは
合っているはず
『愛する大地』も
ル・クレジオも大好きだった
『愛する大地』のフランス語の本は
大学時代の友人だった
須藤恭博がくれた
ろくに読んでなくて
中はきれいだった
ろくに読みもしないくせに
ガリマールのブランシュ版の
フランス装の外側に
須藤恭博は
ビニールカバーのシールを貼って
汚れないようにしていた
それになりに
愛着があったのだろう
もらった
そのフランス語の本を
通っていたアテネ・フランセにも
よく持って行った
習っていたフランス人の先生
ベルナール・レウルス先生といっしょに
たまたま
御茶ノ水駅まで帰った時も
その本を持っていたので
先生に見せたら
題名のTERRA AMATAを見て
「テール・エメ!」と
フランス語で言ってくれた
「ラテン語だね」とも
須藤恭博は
モリエールが好きで
18世紀のヴォルテールなども好きで
たいして勉強はしてなかったが
世間に通じている感じで
400㏄ぐらいの
ちょっと大きめのオートバイに乗っていた
「知ってるか?
モリエールの訳者の
鈴木守衛の名前は
モリエールをもじったんだぜ」
とかなんとか
そんなことばかり言っていた
大学の期末試験の時
となり合って
須藤恭博と座ったことがある
解答用紙を提出する時になって
そうっと
くるくるくると
彼は用紙を机の中にしまい込んだ
「どうして出さないの?」
と聞いたら
「あんまり出来てないから」
と答えてきたので
驚いて
「単位落しちゃうよ?」
と言ったら
「単位を落すよりも
こんなのを先生に見られるほうが
よっぽど恥ずかしい」
とか言って
さっさと席を立って行ってしまった
ずっと年賀状だけは来ていたが
6年か7年ほど前
「もう私も老いてきました」
とか書いてきて
その後は年賀状が来なくなった
大学の頃は
ふざけてほかの友人たちと
「須藤大先生」とか呼んでいたのだが
年賀状が来なくなってから
「須藤大先生」も死んだな
と思うことにした
あいつも死んだな
などと思うのが
いつまでも
どこまでも
いたずら者のぼくは
ほんとうに
好き
De Profundis
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