真実とは、みずから錯覚であることを忘れた錯覚である。
ニーチェ
アメリカ独立に関しては
イギリスがアメリカ植民地に対して課税を強化し過ぎたのに対して
植民地の人間が抵抗したことから始まる
と教えられることが多い
これは
イギリス帝国主義への抵抗
と受け取られ
軍事力と権力と権威によって圧政を行なう者への抵抗ゆえに
正しいことと見なされ
美談に見えてしまう
植民地戦争によって財政赤字に陥ったイギリスが
植民地への課税を強化することで乗り切ろうとしたのは
たしかだが
この時にイギリス王ジョージ3世が出した
勅令については
語られないままに
「歴史」の授業は進んでしまうことが多い
フレンチ=インディアン戦争における勝利で
イギリスは
フランスから
広大な土地を獲得した
その新たな領地での
先住民からの反発を避け
彼らとの関係を安定させるために
ジョージ3世は
アパラチア山脈より西に白人が移住することを
勅令で禁止したのだ
植民地の人間は
フランスから獲得された土地を
新たに開拓できるものと考えていたので
ここにイギリス政府との
決定的な亀裂が生じることになった
ジョージ3世の勅令が守られていれば
その後の
北アメリカ大陸の先住民の運命は
まったく異なったものになっていただろう
時間をかけて巧みに運べば
ヨーロッパからの白人移住者たちと
先住民とのあいだに
平等な関わりあいが作られ
しだいに混じりあって
異民族からなる共和地域が形成される
可能性もあった
そう考えるのは
理想主義的な空想に過ぎないかもしれないが
少なくとも
先住民の権利と文化のありようは
はるかに大きなかたちで残り得ただろう
歴史の部分部分をよりよく見るのは
ほんとうに困難であり
通史から削除されて落されがちになる事実を拾う
細かい技術的な配慮が
とりあえずは
まず必要になる
そうして
対立する国どうしの個々の思想状況や
政治状況の細部や大部を
間違いの少ないように
解釈する必要も出てくる
専門の歴史家たちには
つねに要求されている所作であり配慮だが
歴史を専門としない人間たちも
過去から現代までの社会を考える際には
この作業を
なおざりにするわけにはいかない
たったひとつの事実の見落としが
大局についてのすべての判断を誤らせ
悪を善として
善を悪として
捉えてしまったりするから
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