アメリカの歌姫
テイラー・スイフトが歌いに来る
というので
コンサートの始まる夕方をねらって
東京ドームの前を
右往左往しに
行ってみた
いそいで行けば
東京ドームには家から五分で着く
だいたい
毎週
なにかしら
TOKYO DOME CITYに
小さな買い物に出かけている
今回も
そんなついでの
テイラー・スイフト
東京ドームのなかになんか
まず
入らない
野球に興味ないし
ポップスのコンサート
まったく興味ない
（ワーグナーの
『ニーベルンゲンの指輪』ぜんぶを
クナッパーツブッシュ以上に
超ゆっくり演奏するような試みがあるんなら
行くけどね
喜んで）
グッズ売り場を見ても
ばかだなあ
こんなの買うなんて
としか
思わない
購買客が
シロアリやウジムシのように
グッズにたかるんだよ
見てると
おもしろい
それはそれで
ちょっと
たとえば
すぐ擦り切れそうな生地のTシャツが
６５００円
やっぱり
薄手の生地のトートバッグなんか
４０００円
スェットなんか
１１０００円
たいして量の入らない水筒なんか
３５００円
金持ちじゃないはずの購買客たちから
お札が流出していくのが
垂れ流されるヴィデオクリップのように
見え続ける
カード払いの際には
見えないけれど
マネーの数字の移動が大量に生じているはず
おもしろい
それはそれで
ちょっと
メリル・リンチの株ブローカーを父に持ち
父方の三代前まで銀行頭取の家系で
母も投資信託のプロだった
テイラー・スイフトらしい
マネーの移動と掻き集めの光景が
東京ドームでも
現前している
おもしろい
それはそれで
ちょっと
テイラー・スイフトの
グッズなんか
もちろん
なんにも買わずに
TOKYO DOME CITYの
カルディで買った
ヌテラや
ミックスナッツや
スパークリングワインを
アマン京都でもらった大ぶりのトートバッグに入れ
ついでに
白山通りぞいの
ドン・キホーテで買った
白菜や
えのきや
レモン水なんかも入れて
わぁんわぁん
うぉんうぉん
東京ドームから洩れてくる音のなかに
しばらく居てみた
おもしろい
それはそれで
ちょっと
ポケットには
相良守峯訳の『ニーベルンゲンの歌』*を入れていて
怪力の美女女王ブリュンヒルトに
グンテルが挑むのを
ジーフリトが隠れ蓑を着て助ける場面に
しおりが入れてある
功成り名を遂げて
メディアも
マネーも
すっかり支配したテイラー・スイフトは
ちょっと
ブリュンヒルトに
似ているかも
と思ったりしながら
わぁんわぁん
うぉんうぉん
東京ドームから洩れてくる音のなかに
しばらく居てみた
おもしろい
それはそれで
ちょっと
*Das Nibelungenlied（Der Nibelunge Nôt） um 1200
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