2024年2月8日木曜日

もうそれ以上の味覚は出てこなかった

 

 

  

私は、日本はいつまでも翻訳国なのではないかと思う。

正宗白鳥 『二葉亭について』

 

 

 

 

ラーメンに

なんの興味もない

 

修道僧なみの

簡素な食事をするタチなので

からだに悪い麺と

からだに悪いスープのくみあわせに

興味があるわけがない

 

海塩以外の味つけをしない

野菜煮の

自然の甘さで十分なので

いろいろ

ヘンなものを混ぜ込んだラーメンの汁が

許せない

 

しかも

昨今のラーメンは

高すぎる

 

B級のその場しのぎの食い物に過ぎない

たかがラーメンに

400円以上出す気には

どうしても

なれない

 

しかし

拒否はしない

 

ラーメンの汁は許せないが

許せないものとは断じてつき合わない

という

あたまの固いポリシーは持たないタチだし

踏み絵という踏み絵は

平気で踏んでしまえる柔軟性に富んでいる人間なので

食べるときは

食べる

 

ラーメン店の最先端が開店する地区

といわれる

うちの近所の地区で

オープンして一年ちょっとの店に

入ってみた

 

いつも行列ができていたり

そうでなければ

「準備中」ということだったりする店で

めったに入れない

人気店

ネット上でも

評価がとても高い

細かな分析や知ったかぶりを披露したがるラーメン通たちが

言葉をきわめて絶賛している

 

それが

帰途

ふと見ると

午後3時過ぎだったからか

行列がなく

「営業中」だったので

とっさに

冒険のつもりで入ってみたのだ

 

いちばん凝った

味噌ラーメンを注文する

1350円もする

 

チャーシューが三切れ

ゆで卵がひとつ

大判の海苔が三枚

真ん中には

輪切りの葱が小山をなしていて

悪くはない

 

4種類の味噌を混ぜ

ピーナツバターや練りゴマを混ぜ

豚の背脂の甘みをあわせ

そこに大量の生姜を入れて

濃厚な味にしているが

スープ自体はぎとぎとしていないところへ

太麵が入っている

 

うまい

とは

言えるんだろうな

 

よく

頑張っている

 

ラーメン通は

きっと

そう評価して

すばらしい

と言うのだろう

 

うまい

とは

言えると思うよ

たしかに

 

でも

ラーメン嫌いのわたしとしては

こんなもんか

思ってしまった

 

スープを啜ったり

麺を口に運んだりして

はじめの

五口ぐらいは

うまい

食べていくうち

もっと

うまくなるかな?

期待する

 

しかし

もう

それ以上の味覚は

出てこなかった

 

濃厚に混ぜた味噌の味や

そこにぶっこっまれた生姜の強い味以外には

もう

なにも出てこない

チャーシューも

それらの味を突き破ることはない

海苔も

べつの味はもたらさない

もちろん

ゆで卵など

意外性を提供してはくれない

 

努力しているのは

認める

頑張ってるよね

 

でも

はじめの味わいを超えるような

さらに奥の

さらに意外性に富む味覚との

出会いは

食べ続けていっても

もう

出てこない

 

これなんだよな

ラーメンって

 

何度か

麺を口に運び

スープを啜ると

あとはもう

同じ味ばかりに耐えて

食べ終えていくほか

なくなる

 

これを避けるために

どれだけ

ほかの料理のシェフたちが

苦心惨憺

していることか

 

ひさしぶりに

太宰治の言葉を思い出してしまった

 

 生きて行く力

 いやになってしまった活動写真を、おしまいまで、見ている勇気。

  『碧眼托鉢』

 

まあね

頑張ってるのは

わかるんだよ

 

でも

味のべた塗りだ

 

麺を噛んでも

スープを啜っても

どこも同じ味

金太郎飴だ

 

味が強過ぎるから

こう

なってしまう

 

大阪の

小汚い安饂飩屋のほうが

最後まで

よほど

飽きさせない

 

こわいよね

頑張ってたって

ダメなものは

ダメなんだよ

 

ひさしぶりに

正宗白鳥の言葉も思い出してしまった*

 

  苦労したって拙いものは拙いし、気楽に書き流してもいい者はいい。

                    正宗白鳥『明治文壇総評』

 

 

 

 

 

*参考

駿河昌樹 『なんといっても正宗白鳥』(2010、散文ブログ「朝狩 asakari」所収)

https://asagari.blogspot.com/2010/10/blog-post_14.html






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