2024年10月9日水曜日

「世界史」のお勉強


 

 

学生時代に

あれは山の手線だったか

京浜東北線だったか

電車の中で

左翼の批評家として当時有名だった

「いいだもも」という人に出くわしたことがある

出くわしたといっても

ごく近くに乗り合わせたというだけで

テレビや雑誌によく出ていたこの人の顔が

わたしにもお馴染みだったものだから

「あ、いいだももだ!」

と内心思って

彼が数人と話している内容に

聞き耳を立てたというだけのことだ

 

聞き耳を立てるまでもなく

電車のなかというのに

「いいだもも」は大きな声で話していたので

聞き取るのは容易だった

昔のことなので

内容はもう覚えていないのだが

今でも忘れられないのは

「先週はわれらが共産革命で

数千人の死者しか出ていないんだから

情けないよ」

といった彼の言葉で

この後たしか

「ガハハハハ」というのに近い大笑いが

「いいだもも」から発せられた

 

共産党からさえ除名されて

共産主義労働党や赤色戦線を結成していった

極左の指導者というのは

これほどに豪快なものなのかと

ちょっと驚かされたが

自社商品の売り上げなみに

革命のための死者数を毎週気にするところは

レーニンやスターリンもかくのごとし

と推し量られ

近くで聞いていて

政治というのは

このくらいの太っ腹でやらないといけないものかと

なんだか

こちらにまで豪快な気持ちが

伝染してきそうになったものである

 

何年だったか

正確には覚えていないのだが

大量虐殺で有名なポル・ポト政権が

ベトナムの援助を得たカンプチア救国民族統一戦線の侵入によって

混乱していく直前の1978年ではなかったか

と思われる

多分に演劇的な大げさなものであったにしても

電車の中での「いいだもも」の発言には

ポル・ポト派による虐殺数を

不正確ではあっても報告されていたフシがあった

彼の言い方にも

革命のために好意的に見ている雰囲気があった

 

1960年代も70年代も80年代も

あれだけ有名だった「いいだもも」のことなど

2024年の今はもう誰も口にしないし

そもそも若者も中年も知りはしない

高齢者でもほとんど忘れてしまっているだろう

東京帝国大学法学部を三島由紀夫と同期で過ごし

主席卒業して日本銀行に入行し

その後左翼活動に転じた超秀才の「いいだもも」にしても

世の推移と時代がもたらす忘却には

まったく勝てなかった

 

こんなふうに

ゆくりなく「いいだもも」のことなど思い出したのは

このところ史的唯物論の視点から見た世界史につき合っていて

世界史の総体のわかりやすさに感服したためだろう

世界史の総体を把握しようとするとなると

柄谷行人の『世界史の構造』に現代では飛びつきやすいが

あれはアジア圏やイスラム圏の理解があまりに貧弱で

とても「世界史」などと銘打てるものではない

最終で「世界共和国」とかカントとかを持ち出してくる時点で

タチの悪い楽天的な社会主義連中の夢につき合わされる気になる

エドマンド・バークはもちろん

オークショットのような保守主義言説を十分に浴びてこないと

左翼連中の政治論や歴史観は一ミリの役にも立たない

現代の国際情勢のかつてない崩れぶりこそが

左翼の夢の行き着く先の地獄図である

 

とはいえ世界史把握をテーマとする場合には

史的唯物論の側のお得意の道具のひとつである発展段階論や

階級闘争論もかなり有効なレンズであるには変わらない

現在のガザの事態も古代から無数にくり返されてきた事態のひとつだが

これを占領側と被占領側の階級闘争論として見る視点は

かなりの攻撃力を持つ戦略的発想を創出できる視点となるだろうし

武力や経済支援を注入する外国勢力を獲得できている

現時点のイスラエル側の優位に対して

どれだけ時間が経とうともいずれは根源的な報復を行うであろう

パレスチナ側の武力的・経済的・精神的発展を観察するのに

発展段階論を拡張しつつ眺めるのはやはり有効といえる

マルクス主義の多岐に亘る思考の遺産に意味があるのは

21世紀になった現代でも変わることはないどころか

思考におけるいっそうのエネルギー発出の装置となり得るだろう

 

歴史学者がどのような歴史認識に立とうか悩むにしても

ひとつの社会がみずからをその状態へ導いた動力そのものに内在す

行き詰まりや矛盾によって変容や分解や崩壊を余儀なくされるのは

世界各地のあらゆる歴史現象の観察から導かれる必然である

歴史家はしばしば「社会」や「国家」という枠を嵌めて見てしまうが

そうした狭い枠を嵌めることの不適切さを20世紀からは思い知らされた

せめて「事態」や「状況」という広い枠組みで観察すべき時期だろう

ガザ問題はすでに狭い地域の限定問題として考察すべきではなく

ウクライナに現在ユダヤ人が大挙して侵入してきていて

新イスラエルを造ろうとしていることひとつ取っても

またさらには原発事故以後の日本の東北部をユダヤ人に与える

秘密の計画があったことなどを思い出しても

むしろ増殖性シオニズム問題として措定し直したほうがよい

なぜ日本に多数のムスリムを移民させつつあるか

なぜ世界的に問題の多い国なき民のクルド人を日本に入れておくか

今後のユダヤ人との対応への準備と考えれば計画性を感じとれるだろう

もちろんヨーロッパ各国にあらかじめムスリムを多量に入れておく意味も

おのずとわかってくることになる

いつも最後で大がかりに手のひら返しをするヨーロッパが

今後どのようにユダヤ人を扱うことになるか

これまでの長い歴史でくり返し起こった事態を「世界史」で繙き直せば

なにかを声高に叫ばなくても明白である

もっとも計算高いヨーロッパはムスリムの渦中にユダヤ人を楯として置き

スラブ人種への楯としてウクライナにもユダヤ人を置こうとする

次にはかならず中国への楯としてユダヤ人を置こうとするはずだが

中国は遠いので中東やウクライナとは異なった置き方をするだろう

このように推察し推測し続けるのを「世界史」のお勉強という

 

強者が弱者に行う典型的な虐殺と破壊を見続けて

なんら助けに動こうともしない自分の国や民族に深く絶望し

世界中のこころ優しき人々はうっかりと

「復讐するは我にあり、我これに報いん」とか

「復讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する」などと

新約聖書のパウロの言葉を引用して溜飲を下げたくもなるだろうが

そもそもパウロのこの言葉は

「あなたがたは、できる限りすべての人と平和に過ごしなさい。愛する者たちよ。自分で復讐をしないで、むしろ、神の怒りに任せなさい。なぜなら、主が言われる。『復讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する』と書いてあるからである。むしろ、もしあなたの敵が飢えるなら、彼に食わせ、かわくなら、彼に飲ませなさい。そうすることによって、あなたは彼の頭に燃えさかる炭火を積むことになるのである。 悪に負けてはいけない。かえって、善をもって悪に勝ちなさい。」

(ローマ人への手紙121820)

というふうに地上での徹底的な寛容と自己放棄を説いた言葉であり

虐殺され続け破壊され続けるパレスチナ人に向けてこそ

受忍を勧めるべく言われるのにふさわしい強烈に不条理な言葉であ

天上に富を積む真の意味での金持ちが吐くのこそふさわしい

最強の「金持ち喧嘩せず」言葉であって

イエス・キリストの死にざまのまねびの推賞となっている

パウロ自身はなるほどイエスのように処刑されて死んだのだから

言葉と行為を違えずに模範を示したわけでこの言葉どおりの人であった

 

パウロに触れたついでに

受動的服従を説くこの人物の

さらに強烈で決定的な別の言葉も引用しておこう

「人は皆、上に立つ権威に従うべきです。神に由来しない権威はなく、今ある権威はすべて神によって立てられたものだからです。従って、権威に逆らう者は、神の定めに背くことになり、背く者は自分の身に裁きを招くでしょう。実際、支配者は、善を行う者にはそうではないが、悪を行う者には恐ろしい存在です。あなたは権威者を恐れないことを願っている。それなら、善を行いなさい。そうすれば、権威者からほめられるでしょう。権威者は、あなたに善を行わせるために、神に仕える者なのです。しかし、もし悪を行えば、恐れなければなりません。権威者はいたずらに剣を帯びているのではなく、神に仕える者として、悪を行う者に怒りをもって報いるのです」

「ローマ人への手紙」13.1-4(新共同訳)

 

パウロの言う「権威者」や「支配者」の箇所に

たとえば「安倍晋三」とか「岸信介」などを入れると

今でも大喜びする日本人がいっぱいいそうで気持ち悪いのだが

「ヒトラー」とか「スターリン」とか「ポル・ポト」とか

「ネロ」とか「ヘンリー8世」とか入れてみると

大丈夫か?パウロ?と立ち止まる人も多いことだろう

かなり大丈夫でないのがパウロさんだと思うが

とりわけ大丈夫でないのは

「実際、支配者は、善を行う者にはそうではないが、悪を行う者には恐ろしい存在です。あなたは権威者を恐れないことを願っている。それなら、善を行いなさい。そうすれば、権威者からほめられるでしょう」のところで

「支配者」にとっての「善」を完全受容せよ

という論理矛盾を平気で犯している点である

パウロさんね、キリスト教を完全に抑圧し消滅させようという

当時の「支配者」の強い思いが「善」であるということになっちゃうのを

あなた、わかっていてこう言ったのかね?

これだからユダヤ教に端から馬鹿にされてしまうわけなのさ

 

ところでパウロの『ローマ人への手紙』に引用された

旧約聖書の『申命記』の言葉は

「復讐はわたしのすることである。わたし自身が報復する」

などという日本語訳を見てすっかりわかったつもりになっていられるほど

簡単に済ませられるものではない

ヘブライ語に遡ってみてもいろいろなヴァージョンがあるし

ギリシア語訳から始まってさまざまな英語訳に至るまで

ぴったり同じ意味になるとは言いがたい

いろいろな訳文のオンパレードとなる

どこかで小耳に挟んだ訳文などで知ったかぶりせずに

ヘブライ語からていねいに勉強し直さねば

根本的な批判などもちろん不可能だし

「世界史」的考察や批評や評価も一ミリもできようはない

ヘブライ語以降のヴァリエーションは以下の通り

これだってほんのわずかな抜粋である

 

 

Aleppo Codex

לי נקם ושלם {ר}לעת תמוט רגלם {סכי קרוב יום אידם {ר}וחש עתדת למו {ס}

Biblia Hebraica Stuttgartensia

לִ֤י נָקָם֙ וְשִׁלֵּ֔ם לְעֵ֖ת תָּמ֣וּט רַגְלָ֑ם כִּ֤י קָרֹוב֙ יֹ֣ום אֵידָ֔ם וְחָ֖שׁ עֲתִדֹ֥ת לָֽמֹו׃

Masoretic Text (1524)

לי נקם ושׁלם לעת תמוט רגלם כי קרוב יום אידם וחשׁ עתדת

Westminster Leningrad Codex

לִ֤י נָקָם֙ וְשִׁלֵּ֔ם לְעֵ֖ת תָּמ֣וּט רַגְלָ֑ם כִּ֤י קָרֹוב֙ יֹ֣ום אֵידָ֔ם וְחָ֖שׁ עֲתִדֹ֥ת לָֽמֹו׃

Greek Septuagint

ν μέρ κδικήσεως νταποδώσων καιρταν σφαλ  πος ατν· τι γγς μέρα πωλείας ατν, κα πάρεστιν τοιμα μν.

Berean Study Bible
Vengeance is Mine; I will repay. In due time their foot will slip; for their day of disaster is near, and their doom is coming quickly."

English Standard Version
Vengeance is mine, and recompense for the time when their foot shall slip; for the day of their calamity is at hand, and their doom comes swiftly.

Holman Christian Standard Version
Vengeance belongs to Me I will repay. In time their foot will slip, for their day of disaster is near, and their doom is coming quickly."

King James Version
To me belongeth vengeance, and recompence; their foot shall slide in due time: for the day of their calamity is at hand, and the things that shall come upon them make haste (8804).

Lexham English Bible
Vengeance belongs to mealso recompense, for at the time their foot slipsis near, and fate comes quickly for them'

New American Standard Version
'Vengeance is Mine, and retribution, In due time their foot will slip; For the day of their calamity is near, And the impending things are hastening upon them.'

World English Bible
Vengeance is mine, and recompense, at the time when their foot slides; for the day of their calamity is at hand. The things that are to come on them shall make haste."

 

https://www.studylight.org/interlinear-study-bible/hebrew/deuteronomy/32-35.html






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