神保町の
雨の夕暮れ
中高年の女性たちで集まって
源氏物語の読書会をしているという
義母に
見やすい古語辞典を探してやろうかと思いつき
東京堂書店に
きまぐれに寄る
辞典のほか
予定外に語学書なども買って
雨の夕暮れ
書店からすずらん通りに出ると
薄闇は濡れて
うつくしく
懐かしい
神保町風景だった
本降りになった雨さえ
うつくしく
まるで
なにかの覚醒の瞬間のように
快いのに驚いて
しばらく
暮れがたの灯の並びを
揺れを
傘さしてゆく人びとの
くっきりとした夢まぼろしの影を
眺めた
神保町の
雨の夕暮れは
あらゆる大学街の
雨の夕暮れに通じていて
人びとはいつのまにか
大学生に戻り
とある秋の一日
ふいの雨に降られていた瞬間の
若き
若きわれと
なる
そういえば
ひとつ
買い忘れていた
と気づき
本降りのなか
むかいの道を少し靖国通り方面に
行ったところの
ボヘミアン・ギルドに寄って
状態のとてもいい仏和辞典を
500円
という廉価で
教えている中高年の学生のひとりに
買っていってやろう
ともする
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