帰りのメトロ
豪勢に泣きだした赤ん坊
お父さんは
○○○○スタンとか名のつきそうな国の人のような顔で
奥さんに英語でしゃべっている
さっきまで
ブルーのワイシャツの胸に赤ん坊を抱き
左右に大きく揺すってあやしていたが
その効果も尽きたらしい
奥さんが
ハッとするほどの美女で
日本語で夫に話しかけているから日本人なのだろうが
顔立ちはヨーロッパふうなところのある
つくりの大きな
ちょっとシャロン・テートのような造形
うしろの首の上で巻き上げた髪が少し古風で
これもいい
しばらく豪勢に
豪勢に
泣きわめく男の子に
あたふたと済まなそうな顔をふりまくお父さんと
息子を胸に抱いて口になにかを含ませる
お母さん
車内の端の端まで
泣きわめきは響いているのに
文句をいう人はいない
こういう時
静かなものだ、南北線は
世田谷にいた頃
田園都市線はこうではなかった
チッ、とか
ウルセエナァ、とか
赤ン坊ナンカノッケンジャネエョ、とか
そんな声が車内のあちこちに洩れ
赤ん坊の声よりも
よほど空気が不愉快になった
本籍地でもある
長く長く住んだ世田谷を
ぼくが去った理由は
こんなところにあったなぁ
どこにいっても充満している
こんな空気に
もう堪えられないと思ったんだよ
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