アングレームだったか
ポワチエだったか
それとも
ランスやアミアンだったか
ホテルで目覚め
朝
窓をあけて下をのぞくと
小さな中庭に面して
数階下の部屋の窓も開けられ
男がひとり
窓辺に立っていた
よく見ると
体の前で棒状のものを握り
てのひらを前後に動かしている
自慰しているのだ
棒状のものはよく見えるが
木でもない
金属でもない
色もはっきりしない
やわらかさのある
判別しづらいものに見え
男のてのひらは
ゆっくりと
ゆっくりと前後し続ける
窓枠にもたれ
すこし体を乗り出して
見続けるうち
男はてのひらの動きを止め
こちらのほうをふいに見上げた
男の顔がこちらに向く前に
ほんのすこし早く
部屋のなかに身を戻したので
見られなかったと思う
男の目は
数階上で開いている窓を
ただ捉えたにすぎないだろう
しばらくして
もう一度見下ろしたが
開いている窓に
男の姿はなかった
邪魔してしまったかな
と思ったが
女のいない朝は
まだ
いくらも男に来るだろう
ちがう場所のホテルで
しずかな朝
窓を開け
朝の気のなか
また
機会は来るだろう
今度は
どこで?
ナントで?
あるいはニース?
ブザンソン?
グルノーブルで?
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