2013年3月29日金曜日

三島さんの宿命の紐に入り込んで




さばかりの戦ひの中にやさしかりけることかな
古今著聞集


 
じぶんをここまで練り上げてきた宿命の紐の
その一本一本の見直しと吟味を続けているなか
ときには混線もあり他者の紐への逸れもあって
さっきも三島由紀夫さんの宿命の紐へと意識の目は流れ込んだ

人の首を横から切り落とす瞬間の
あれはどのあたりだろう
まなざしとなったわたしは三島さんの脛か膝のあたりから
上を見上げるかたちになり
落とす首を見下ろしながら刀を振りかぶる三島さんの顔を
よくよく見続けていた
これから首切られる人の左の掌の動きも見えていた

自決事件のとき三島さんは最初に首を打たれたのだから
誰のことも殺さなかったはず
まなざしとなったわたしが見たのは先の世の光景で
三島さんこそが他の人の首を切り落とした
それは親しい大事な人であったから
転生後も三島さんのなかで悔恨は残り
機会あらばいつかじぶんが斬られることで反転をと
ふかく思いを隠しながらあの自決事件に進んだ
三島さんの行動にたどりづらいところがあるのは
こうした宿命の紐のいくつかの捻じり込みが見えづらいから
先の世で大事な人の首を落とした悲しみを引きづりながら
傷ついたまま優しく生きてきた三島さんの心根へと入り込み
そんなにも愛し慈しんでいたかと
わたしは三島さんの行動のすべてを一気に見直した

自決事件のとき最期に三島さんは
悪かったなあ、あのときは
とつぶやいたはずだが誰も聞き取らなかったか
それとも誰かの耳には残ったか
今となってはわからないが
転生してまで戻したかった宿命の紐の捻じれを
ひといきに直せる瞬間を前にし
心魂はまるごと安堵し
暮れ方の沁みるようなあおむらさきの色に
肉体まで染まるさまは
たぶん肉眼にも見えたはずと思う

                                

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