2013年12月21日土曜日

こわくないよ、こわくないよ、




養護学校が近くにあるらしい
顔なじみの子たちが
バスに乗り込んでくる

(ぼくのことなど
(かれらは覚えていまい
(世の中と同じように
(神や天使たちと同じように       

(でもぼくは覚えている
(ぼくだけが
(この世のこと
(あの世のこと
(すべてを覚え続けている
(だから
(たまに天使がものを聞きに来ると
(しぶしぶ教えてやったりもするわけだが

こわい、こわい
と言い続けている子がいる
バスはふつうにゆっくり走っていて
こわいこともなさそうなのに
こわい、こわい
と言い続けている
バスというものがこわいのか
ちょっと混んでいるのがこわいのか
こわい、こわい
と言い続けている

けれど
その子にむかって
ちょっと離れたところにいる
あたまの小ちゃい子が
こわくないよ、
こわくないよ、
だいじょうぶだからね、
こわくないからね、
ときどき
言ってやっている
こわい、こわい、のたびに言うのでなく
ときどき
言ってやっている

この間のとりぐあいが
なかなかのもの
他人でいっぱいのバスのなかを
じぶんたちのことばだけで占めてしまわないように
ちゃんと配慮している

こわい、こわい、

こわくないよ、
こわくないよ、
だいじょうぶだからね、
こわくないからね、

こわい、こわい、

外には
晴れわたった夕がた
いくつか
ポツンと見えている雲
信号待ちの
犬をつれたおじさん
犬はちょっと口を開いて
舌を出し
どこかを見つめている

こわくないよ、
こわくないよ、
だいじょうぶだからね、
こわくないからね、

あたまの小ちゃい子が
また言う



               


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