2014年2月26日水曜日

ほら、あのあたりでもう大きく盛り上がってきている




           われら皆死にゆく定め…*
    JF・ケネディ



  
だれでも知っている
民主主義には奴隷が必要だと

揺るぎない大きな差別制度の上に浮かぶ
少数の特権階級の浮島の中での
ちょっとした権利調整の網
それが民主主義で
被差別層まで取り込んだ民主主義など
たった一度も世界で実現したことはないのだと
もし実現したかに見えているなら
それはいわゆる市民全員が
奴隷身分に落し込まれているはずだということを

民主主義発祥の栄光の地
などというチープなストーリーに
たびたび使われるアテネよ
おまえを思い出す
たしかにオリーブや陶器や武器を商品にして
富を築いたとはいえ
奴隷貿易はおまえの中心産業だったし
いわゆる市民たちは
家内奴隷や農工業奴隷を個人で所有して
人類の遠い未来の夢見がちな連中のために
民主主義ドリームを作った
債務者や戦争捕虜から構成された
市民の人口の三分の二の数の奴隷が
このドリームを下支えした

スパルタよ
先住民アカイヤ人を征服してできた
広大な農地を持つおまえのことも思い出す
征服した民の数は
いわゆる市民の十倍だったが
それらを国有の奴隷と化し
農業に従事させポリスは栄えた
奴隷に知識や特別な技能は与えず
もちろん兵にはせずに
農業だけに就かせる老獪さ
奴隷たちを厳しく統治するために
いわゆる市民たちも厳しく教育され
強力な軍事国家の道を歩んだ
軍は自国内の統治のために
準備されるものでもあるとの教訓を
人類史に残してくれた
おまえよ

いわゆる市民のうち
貴族という既得権益者と
平民という新興勢力との摩擦から
民主政という応急処置は出てきたが
彼らの生活と経済を支える奴隷層は
もちろん奴隷のまま
強固に固定され続けねばならなかった
平民の成り上がり運動としての民主政も
僭主による独裁に向かう他はなかった
それを阻止する方策として
地縁重視の部族制度が作られていくことになり
もちろんこれはこれで
新たな難問を作り出していく

奴隷なしの民主政実験は
ついこのあいだ
二〇〇年ちょっと前に始まったばかりで
まだまだ
捧げる命も足りていないようだし
ふんだんに流すべき鉄分豊富な血液量も
路上に投げ出すべき湯気の立つ新鮮な人肉量も
まったく足りていないらしい
もうすっかり落ち着いたなどと
いわゆる市民らが怠惰に居眠りしていたあいだに
次の大きなひと揉みが
ふた揉みが
人類という情け無用の気違いじみた実験の海の
ほら
あのあたりで
もう大きく盛り上がってきている

  



*John Fitzgerald Kennedy  “We are all mortal”.






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