明るいうちも歩くが
日の暮れ際も歩く
すっかり夜になっても歩く
スマートフォンも持たず
メモ帳も持たず
カメラも持たず
水だけを持って歩く
自分とやらはたぶん持って出るが
どんどんと剥がれ落ちていくのを感じるので
自分なんてきっとどうでもいいものだったのだろう
仕事もたくさんの用事も頭の中に持って出たつもりが
いつのまにか遠い遠い箱にしまった文書の数々のよう
アスファルトや
土や
延々と続く草や
空や
河や
遠くの家屋の連なりや
それらの光や
高速道路の曲線や直線ばかりが見え
いろいろな遠い音が聞こえ続ける
時どきどこかの山奥で嗅いだ匂いが立ったり
なぜか芳しい花の香りが来たりする
最高速度に近く歩き続けるので
全身が薄く濃く汗ばんでいる
時どき頭皮の中から汗が流れ落ち地面に滴る
足腰から背に脇腹に筋肉が連動し続ける
下して振っていると手のひらの指先に血が溜まって腫れてくるので
時どき上に向けて様子を見ながら歩き続ける
一時間半ほどまでなら快調だが
二時間を超えると靴の中でマメができ始める
靴の縁で踝も擦れて来る
だいぶ前のこと6時間も8時間も歩き続けた時には
筋肉疲労も呼吸機能も大丈夫でも
スポーツシャツの腹部あたりが大きく血で染まっていて驚いた
速乾性のシャツの裏地に腹の皮膚が擦れて
臍のまわりや脇腹の皮膚から出血していたのだ
公衆便所に入って洗い流したり止血を試みたが
なかなか止まらず時間を食った
ティッシュで傷を押さえながらゆるゆると帰路に戻ったが
まだまだ2時間は歩く必要がある距離が残っていて大変だった
そんな長期の快速歩行を試み続けながら
足腰も心肺機能も大丈夫でも
意外なところでいろいろな故障が起きるのを経験した
人間の活動はすべてがこんなふうだろう
意外なところでいろいろな故障が…
そんな小さな自分だけの教訓を摘み取りながら
歩き続けてきて
歩き続けていく
明るいうちも歩くが
日の暮れ際も歩く
すっかり夜になっても歩く
スマートフォンも持たず
メモ帳も持たず
カメラも持たず
水だけを持って歩く
自分とやらは疾うに剥がれ落ちて
安手の仮の自分の仮面を被って歩く
自分とやらを持っていると騒ぎ誇示する人々をもう見もしない目で
アスファルトや
土や
延々と続く草や
空や
河や
遠くの家屋の連なりや
それらの光や
高速道路の曲線や直線ばかりを見
遠い音近い音を聞き続ける
時どきどこかの山奥で嗅いだ匂いが立ったり
なぜか芳しい花の香りが来たりする
全身が薄く濃く汗ばんでいる
0 件のコメント:
コメントを投稿