2015年9月5日土曜日

歩き続ける



明るいうちも歩くが
日の暮れ際も歩く
すっかり夜になっても歩く
スマートフォンも持たず
メモ帳も持たず
カメラも持たず
水だけを持って歩く
自分とやらはたぶん持って出るが
どんどんと剥がれ落ちていくのを感じるので
自分なんてきっとどうでもいいものだったのだろう
仕事もたくさんの用事も頭の中に持って出たつもりが
いつのまにか遠い遠い箱にしまった文書の数々のよう
アスファルトや
土や
延々と続く草や
空や
河や
遠くの家屋の連なりや
それらの光や
高速道路の曲線や直線ばかりが見え
いろいろな遠い音が聞こえ続ける
時どきどこかの山奥で嗅いだ匂いが立ったり
なぜか芳しい花の香りが来たりする
最高速度に近く歩き続けるので
全身が薄く濃く汗ばんでいる
時どき頭皮の中から汗が流れ落ち地面に滴る
足腰から背に脇腹に筋肉が連動し続ける
下して振っていると手のひらの指先に血が溜まって腫れてくるので
時どき上に向けて様子を見ながら歩き続ける
一時間半ほどまでなら快調だが
二時間を超えると靴の中でマメができ始める
靴の縁で踝も擦れて来る
だいぶ前のこと6時間も8時間も歩き続けた時には
筋肉疲労も呼吸機能も大丈夫でも
スポーツシャツの腹部あたりが大きく血で染まっていて驚いた
速乾性のシャツの裏地に腹の皮膚が擦れて
臍のまわりや脇腹の皮膚から出血していたのだ
公衆便所に入って洗い流したり止血を試みたが
なかなか止まらず時間を食った
ティッシュで傷を押さえながらゆるゆると帰路に戻ったが
まだまだ2時間は歩く必要がある距離が残っていて大変だった
そんな長期の快速歩行を試み続けながら
足腰も心肺機能も大丈夫でも
意外なところでいろいろな故障が起きるのを経験した
人間の活動はすべてがこんなふうだろう
意外なところでいろいろな故障が…
そんな小さな自分だけの教訓を摘み取りながら
歩き続けてきて
歩き続けていく
明るいうちも歩くが
日の暮れ際も歩く
すっかり夜になっても歩く
スマートフォンも持たず
メモ帳も持たず
カメラも持たず
水だけを持って歩く
自分とやらは疾うに剥がれ落ちて
安手の仮の自分の仮面を被って歩く
自分とやらを持っていると騒ぎ誇示する人々をもう見もしない目で
アスファルトや
土や
延々と続く草や
空や
河や
遠くの家屋の連なりや
それらの光や
高速道路の曲線や直線ばかりを見
遠い音近い音を聞き続ける
時どきどこかの山奥で嗅いだ匂いが立ったり
なぜか芳しい花の香りが来たりする
全身が薄く濃く汗ばんでいる




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