2016年3月26日土曜日

なおも届いてくる



ひさしぶりに死んだ友の話
すべてを収集したつもりでも
わずかに洩れ落ちているエピソードが
今でもひょいと耳に入る

いっそうの治療とリハビリのために
衰弱する中で引越しをしようとしていた頃
引越しのすべては私と引越屋がやると言っていたのに
引越しの準備を自分なりに家で
小さく小さく
しようとしていたらしい
けれども
思うように体が動かない
動くたび
すぐに疲れる
そうして
さめざめと
涙を流し続けていたらしい
自分のことも
自分でできなくなってしまったと
ずっと泣いていたらしい
それを
介護ヘルパーさんが見ていて
それを他の人に言い
その話が
ふとした拍子に
六年も経った今頃になって
私の耳に届いてくる

一度も病気らしい病気などしたことがなく
いつも健康と体力を自慢していた友の
最後の頃のエピソード
どれも驚くほど意外なことではなく
そうだったろうと想像もできるものの
たまたま
私が見なかった瞬間の
いかにもありそうな光景が
歳月を経て
ぽつぽつ
なおも届いてくる

すべてを収集したつもりでも
わずかに洩れ落ちているエピソード
なおも届いてくる
今でもひょいと耳に入る




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