ひさしぶりに死んだ友の話
すべてを収集したつもりでも
わずかに洩れ落ちているエピソードが
今でもひょいと耳に入る
いっそうの治療とリハビリのために
衰弱する中で引越しをしようとしていた頃
引越しのすべては私と引越屋がやると言っていたのに
引越しの準備を自分なりに家で
小さく小さく
しようとしていたらしい
けれども
思うように体が動かない
動くたび
すぐに疲れる
そうして
さめざめと
涙を流し続けていたらしい
自分のことも
自分でできなくなってしまったと
ずっと泣いていたらしい
それを
介護ヘルパーさんが見ていて
それを他の人に言い
その話が
ふとした拍子に
六年も経った今頃になって
私の耳に届いてくる
一度も病気らしい病気などしたことがなく
いつも健康と体力を自慢していた友の
最後の頃のエピソード
どれも驚くほど意外なことではなく
そうだったろうと想像もできるものの
たまたま
私が見なかった瞬間の
いかにもありそうな光景が
歳月を経て
ぽつぽつ
なおも届いてくる
すべてを収集したつもりでも
わずかに洩れ落ちているエピソード
なおも届いてくる
今でもひょいと耳に入る
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