2016年7月3日日曜日

永遠にこれから

  
さばかりの戦ひの中に
やさしかりけることかな。
『古今著聞集』


嵐のあの日々
わたくしはもっと優しかったようだし
愛のしぐさも涙も笑いも
たぶんもっと
ふんだんにばら撒き続けていた
いつも誰かの腰に腕を廻して
進んでまよい込んで
行かなかった林や森があっただろうか
裸足でながく歩まなかった
砂浜があっただろうか

写真さえ撮らなかった
撮っておかなかった
顔顔顔が
浮かんでくる
…どころか
目の沼の中に
いつも
揺れ続けている

嵐の日々だったのに
あれだけ多くの
顔に
うなじに
腕に
腰に
指先に
めぐまれて
まるで稀なほど幸福な映画の
天真爛漫な登場人物のひとりのように

まるで
いつまでも
これから
永遠にこれから
ヴェネチアに
舟で着岸しようとする刹那の
旅人のように



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