伊藤こりんと伊藤まりんとは
お台場で
ずいぶんと言えば
ずいぶんな
強風に吹かれた
こりんの買った背のちょっと高い
ソフトクリームが
倒れちゃったくらい
強っよ~い風
(ぼくはその時
(なぜか
(疑ったのだ
(こりんの心の中には
(“こるん”という音に近いような
(別人格があるんじゃないか
(と
まりんはソフトクリーム倒壊には
見向きもせずに
「あそこぉ―
「ほらぁ―
「白ぉいー
「おおおおおおきな―
「お船ぇ―
で
ぼくは恋に落ちたのだ
伊藤るりんに
恋に落ちたのもすっかり忘れて
(まりん
(おバカかなぁ
(おバカ
(いいなぁ
なんて
思って
(もちろん
(おバカなのは
(ぼくの
(ほう
(だった
(まりんは
(この時
(宇宙物理学専攻の四年生で
(ぼくなんかには訳のわからない卒論を
(完成するところだった
女の子の
おバカなところに恋をするというのは
癒しがたいほどの
レベル5ぐらいのおバカである
伊藤こりんからは
こうして言説が逸れてしまったが
言説というのは
なにかと
逸れる
話は逸れる
かといって逸れ過ぎないのも
気づまりなもので
言葉の
悪いところだよ、これ
その頃
お台場のどこかから
あまり知られていないボートが出ていて
伊藤こりんと伊藤まりんとぼくは
それに乗り
浅草まで行った
隅田川はちょっと生臭く
そのせいでもないだろうけれど
スミダガワ
と発音したつもりが
なぜか
スムニダワ
となってしまい
これが
伊藤こりんと伊藤かりんにウケて
彼女たちも
スムニダワ
スムニダワ
スムニダワ
スムニダワ
とくり返し(二回ずつくり返したように
今
記したがそれは省略しただけで
ほんとは
十回以上はくり返しました)
ぼくも
スムニダワ
×20
くらいはまた言って
暗くてわびしいスムニダワの水を
ときどき覗き込んだりしながら
こんなところに落ちて死んだらこわいね
こんなところに落ちて死ぬひといるよね
こんなところに落ちて死ぬのいやだよね
などと
ちょっと小さめの声で(雰囲気が出るよ~に)
言ったりして
浅草に上陸して
まずはあのウンコビルでビールを飲み
その後
どうしようか
とか言いながら別の河岸に渡って
「これを
「河岸を変えるっていうんだ
「ほんと
「ほんとに“河岸を変える”ね
とか言いながら
神谷バーに流れ込み
ちょうど席が空いていたものだから
電気ブランを飲んだんですが
いっぱい飲んで
ずいぶん酔ったので
もう
その後どうなったのか
覚えていない
のです
気づくいた時には
こりんは
ぼくの妻になっていて
(あ
(まりんのほうがよかったかな
と
思ったけれど
後の祭り
で
ありました
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