2016年11月6日日曜日

もう一度眠りに落ちようと努めても


疲れきって寝落ちしてしまうのは幸せで
寝よう寝ようと
必死に睡眠の洞穴に滑っていくよう努めるのは
なかなか辛い
思いはいろいろと
どうして終わりなくわき上がってくるのか
思いがたくさんのことを邪魔するから
あの道もこの道も
辿り切れなかったじゃないか…

とはいえ目覚めの
不快さほど酷いものはこの世には少ない
これから仕事や用事で外に出ていこうという時の目覚めではなく
あさまだき
ふいに覚めてしまって
あきらかに眠気は残っていて
からだにも疲れが残っているというのに
意識だけはずいぶん澄んで広がってしまっている
まだからだを休めておこうと寝ていても
さまざまな思いがもう脳のなかを乱舞していて
二度と寝つけない

それでも
なおも寝ていよう
もう一度眠りに落ちようと努めても
そうできるほどの眠さの燃料は足りなくなっていて
からだを横たえている姿勢では
まるで衰弱の過程のような
死へと確実に向かっていく最中のような
寂滅の心境に陥っていく

まだ今日この頃はからだも動き(今日もきっと動くだろう…)
意識もはっきりとして動けるだろうが(今日もきっと…)
いずれ(それはちゃんと数えられるだけの日数の先に訪れる…)
飛べなくなって地でばたつく蝉たちのように
床から起きようとしてもふらふらゆらゆらとするようになり
腰から下肢の筋肉はげっそりと落ち
背筋も腕の筋肉も衰えて
顎もちゃんとは閉められなくなり
舌に苔など生えるようになって
はっきりした子音の発音もできなくなって
なにを言いたくてもあわあわと
ああああと
言うというより音を発するだけの乾いた肌の
かろじての生体となっていくだろう

こんな思いやイメージが
横たわっているからだのあちこちに力なく動めき出し
日々どんなに明るく輝かしい朝がカーテンのむこうで待っていようとも
あらゆる刻々の時間は衰弱と死へとしか向かってはいかないのを
その確実な流れのなかにしか誰も居られないのを
圧倒的な大きさと威力の砲弾を胸で受けとめるように
受け身いっぽうで
できる抵抗といえば
筋肉の衰えを少し遅くする運動をしようと決意する程度で
あらかじめの終焉をちょびちょびと薄味で
嚥下していくほかにはない

…さあ、起きよう
と立ち上がるしかない
立ち上がれるうちは
せめては力づよく踏みしめて
死と滅びへと前向きに向かっていこう
そう思いながら
街に踏み出し
駅の階段も上り
電車にも乗り込むしかない
恵みのように
ふいに
あるとき突然与えられる死の瞬間までは
まるで
滅びになど向かっていないかのように
死からは遠ざかっていけるかのように



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