たったひとりの人間でさえ
あまりにたくさんの層の重なりや
大きさもインテリアも異なる無数の小部屋からできているので
それらの層や小部屋のあいだに迷い入ってみると
ことばだけが地図ともなれば
通路とも廊下ともなり
層や小部屋の壁を通過する電波ともなる
方向性の一致もありえなければ
共和も統一もありえないこんな複雑な機械を
どうしてわたしたちは与えられたのかわからないが
どうみても力足らずなのに
国境がどこにどう走っているのかも掴めないまま
巨大な帝国の皇帝であるかのようなふりを強いられて
見えもしない地帯への命令を始終出し続けるものの
執行の事実や効果の具合などについての報告は
木霊のようにあとから薄く響いてくるばかり
せめてじぶんの顔ぐらい掴み直そうと
ことばという鏡をのぞいてみても
鏡自体も不確かな霧のかたまりのように見え
そこに写っているかのようなじぶんの顔も
霧のかさなりの濃淡にすぎないようにしか見えない
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