わかい女性とずいぶんワインを飲んだが
つぎつぎと
よどむことのない話のあいだ
彼女の顔が変化し
すくなくとも
二度は
別人の顔になっていて
その別人たちが話し続けているさまが見られた
こういうことはよくある
ひとりの人というのは
たいていは何人かの人が重なってできていて
それぞれの顔が異なった容貌となっている
だが本人にはわかっていない
この複数の人格は
女性の場合
飲酒や性愛の場面で顕著に顕れる
過去の房事の際
肩までしか髪のない女性がいつのまにか腰までの長い髪になって
寝具の上に寝乱れていたり
若くみずみずしい顔貌が真性の髑髏になっていたこともあった
驚くほどのことではない
これがこの世で起こるごく普通の出来事のひとつで
街を歩いていても
胸に大きな穴が開いている人がいたり
頭のない人が
いったいどうやって吸うのか
ビルのわきで電子煙草を吸っていたりするのも
そのたぐいといえる
ワインを飲んだ女性に顕れた顔のひとつが
煤けたように
焦げたように
ずいぶんと黒い骨張った顔だったのは
すこし気になる
過去の死にざまをいつまでも引きずっているのはよくない
あんなこともあったと
笑ってたまに思い出す程度になるまで
しかし自由に思い出せる能力を確立するまで
未知の新鮮な道としての本当の生は始まらない
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