2019年12月7日土曜日

未知の新鮮な道


  
わかい女性とずいぶんワインを飲んだが
つぎつぎと
よどむことのない話のあいだ
彼女の顔が変化し
すくなくとも
二度は
別人の顔になっていて
その別人たちが話し続けているさまが見られた

こういうことはよくある
ひとりの人というのは
たいていは何人かの人が重なってできていて
それぞれの顔が異なった容貌となっている
だが本人にはわかっていない

この複数の人格は
女性の場合
飲酒や性愛の場面で顕著に顕れる
過去の房事の際
肩までしか髪のない女性がいつのまにか腰までの長い髪になって
寝具の上に寝乱れていたり
若くみずみずしい顔貌が真性の髑髏になっていたこともあった

驚くほどのことではない
これがこの世で起こるごく普通の出来事のひとつで
街を歩いていても
胸に大きな穴が開いている人がいたり
頭のない人が
いったいどうやって吸うのか
ビルのわきで電子煙草を吸っていたりするのも
そのたぐいといえる

ワインを飲んだ女性に顕れた顔のひとつが
煤けたように
焦げたように
ずいぶんと黒い骨張った顔だったのは
すこし気になる
過去の死にざまをいつまでも引きずっているのはよくない
あんなこともあったと
笑ってたまに思い出す程度になるまで
しかし自由に思い出せる能力を確立するまで
未知の新鮮な道としての本当の生は始まらない




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