2020年3月1日日曜日

ながらへばまたこの頃や忍ばれん




『追憶』と訳されている
ロバート・レッドフォードとバーバラ・ストライサンドの映画
The Way We Were
それと同じ題名の主題歌*の歌詞を
曲をかけながら
なにげなしに目で追っていたら
Misty water-colored memories of the way we were
とあって
かなわないなぁ
こういう時の英語には
しばらく
いっぱいになってしまった
こころ

あの頃のわたしたちの
霞んだ水彩画のような思い出の
かずかず
とでも訳しておけば
いいにはちがいないが
Misty water-colored memories
には
かなわないなぁ

日本語がかなわないというのではなく
国々のことばが
それぞれ
引き立つような舞台というものがあって
そこに立ったときには
どこの国のことばも
ふいに
しっとりと
引き立つ

Mistyにひかれて
見わたせば山もとかすむ水無瀬川夕は秋となに思ひけむ後鳥羽院)
を思い出したが
ほかの詩歌を思い出したほうが
いいだろうか

思い出す
ということに寄り添うならば
ながらへばまたこの頃や忍ばれんうしと見し世ぞ今は恋しき藤原清輔)
いいだろうか

これからも生き長らえれば
こんな現在のことも
また
なつかしく思い出されることになるのだろう
つらく思われた昔のころのことが
今では
こんなに
恋しく思えるのだから

The Way We Wereの作詞者がこれを読んだら
ちょっと
嫉妬するのではないか

たった三十一音節で
この内容を…
思うのでは
ないか

かなわないなぁ






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