むかし撮ってみた
画像のよくないビデオを
ひさしぶりに
あれこれと見直してみたが
それらが過去でなどないことに
やはり
驚かされた
小さなデジタルカメラに備わっていた
とりあえずのビデオ機能で撮ってみただけなので
他人が見ればつまらない
下手な映像ばかりだが
二度の引っ越しを軸として
もう二度と戻りようもないその時点での住まいの
家具やテーブルクロスや天気や
植物の花のようすや
ゴミ袋のいびつな膨らみようや
そのわきに置かれたビンや缶などの燃えないゴミなどまで
不意打ちのように蘇らせ
巷にあふれるどんな映像や写真や本よりも
いまのわたしを沈黙させ
引き込んでしまう
壊れて粗大ゴミに出すことになった
二台の冷蔵庫が健在だった姿や
住んでいる時にはあたりまえだった
部屋部屋の空気感やひろがりぐあいや
もう捨ててしまった枕カバーやソファーカバーや
台所の砂糖や塩や調味料類の置きかたが
これぞわが人生の真の研究テーマであるかのように
ありのまま
そこに見えている
引っ越しを準備するなかで
内覧に行ったいくつもの物件もずいぶん撮っていて
室内の動線をカメラで辿ってみた映像や
ヴェランダや窓からの外の眺めや
台所や洗面所の雰囲気や
使い勝手を予測してひろげてみるじぶんの腕や
10数階の物件の窓から見はらしてみる遠くの風景なども
ついに住まなかった場所の風景として
それはそれで心惹かれる映像になっている
当時はもし此処に住むことになったらと撮影し
いまはついに住まなかった場所のひとつとして映像を見直して
なんでもない下手くそな下見のビデオ撮影というのに
くりかえし見ても見飽きない豊かさがある
現在の場所に移る前に七年も住んだ旧居の下見映像もあって
住むかどうか最後の決定をしに再訪した時点の映像だが
部屋や廊下や洗面所や台所や畳の部屋や
あちこちのコンセント口の配置の様子や
外から入るひかりが壁や床に映って白くなっているのや
ヴェランダからのみどり溢れる外景までがじっくり撮れていて
まだ未知の場所だったそこにその後けっきょく七年も住むことにな
その七年はわたしのなかにまるごと染み込んで
いまのわたしの意識そのものを作りあげているというのに
まだこれから始まろうとするまったく新しい未知の生活の場である
外からの明るいひかりを引き入れて室内は静まっていた
過ぎ去ったものはなにもなく
一切はこれからであり
外のみどりと部屋にふんだんに差し込む明るさがわたしを待ってい
わたしを永遠に待っていて
ゆっくり流れていくビデオの時間も
そこに眺められる空間のありようも
しあわせそのものだった
過去というものはない
ほんとうに
ない
過ぎ去るということはない
消え失せるということもない……
この頃根本から思い直しつつあった
時間について
空間についての
触れかた
より正しい掴みなおしかたの
コツを
ちょっとしたコツを
わたしは
また
すこし
感じとれた気がした
0 件のコメント:
コメントを投稿