浅くしか眠れないまゝ
それでもなおも横たわっていたら
意識のおもてにふいに
ひとつ
バッグが浮上してきた
肩掛けのカーキ色のバッグで
ポリエステルの表地なのか
それとも他の素材だったか
布地の中には中綿が少し入っていて
どの部分もやわらかいが
形状はちゃんと保たれている
肩にかけるベルトは青で
カバーの縁には革が張られている
もう40年も前に使っていたバッグで
そうだ、これを提げて
手には大きなボストンバッグを持って
実家を出奔したのだった
その後もずっと使い続けて
たぶん5年ほどは手元にあった
天気のよい日に江の島に行った時も
これを砂浜に置いている光景が
なぜだか鮮烈に残ってもいる
バッグの脇やカバーのところどころが
だんだん剥げてきてしまって
他のバッグと替えることになったが
いま思うとなかなか丈夫で
そんなに好きではないながらも
どうこう思いながら使い続けていた
仕事に行くのもこれで十分で
エレーヌが全粒粉パンで作ってくれた
昼食用のシンプルなサンドイッチも
このバッグに入れて出かけたものだった
捨ててしまってから35年は経つだろうが
なんという鮮やかさで意識のおもてに
ふいに浮上などしてきたことか
35年経ってしまったとか
捨ててしまってもう存在しないとか
そんな認識のほうが誤っているかのような
このありありとした蘇りようは何だろう
そうしてこのバッグの後に使ったはずの
新たに買ったバッグが全く思い浮かばないのは
これはまたどうしたことなのだろう
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