博多で夕子に会ったあとは
なんだかずいぶん
ぼーっとしてしまった
食べ過ぎたのではない
濃艶さにやられたのでもない
中州をさまよいながら
あゝここは春子と歩いた道
あゝここは夏子と迷い込んだ道
たぶんそんなことが
つらつら思われたせいで
ぼーっとしてしまった
クリスマスの飾りの取り忘れが
寒い空気の中でちっちゃな店の
窓のへりにちらちらとして
ふいに思い出された
大学時代の秋子の横顔
あゝ冬子はいまも函館にいて
事務製品の寒いオフィスで
まだ帳簿つけなどしているのか
そんなあれこれをぜんぶ
夕子に言うわけにもいかないから
なんだかずいぶん
ぼーっとしてしまったと
歩きを遅くしながら洩らすと
きっとあたしのせいね
だってさっき決めたじゃない?
もうここに根を下ろして
ふたりして生きていくのだと
あなたの故郷のここでって
さっき決めたじゃない?
と夕子が言うものだから
あゝまたおれはそんなことを
言ってしまったのかここが
おれの故郷だなんてことを
と別に悔やみもしないで思い
パリローマヴェネチアミラノ
ロンドン大阪ソウルに北京
おれが故郷だと言わなかった
街がはたしてどれくらい
世界に残っているだろうと
思って笑えてきてしまい
ははははははははははと
声まで出して笑ってみたら
ほらやっぱり!あなたも
そんなに嬉しいわけね!
そうなのね!そうでしょね!
そうしてグッと手を引いて
ぐぐいと引いていく先は
あゝ春子夏子秋子らと
いつか来た道
いつか来た道
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