2021年6月30日水曜日

パリの音がする


シューマンの『東洋の絵《6つの即興曲》』を

紀尾井ホールで聴いている時

パリの街路にいる

ような

強い感覚

湧いて

不思議だった

 

シューマンは

ハイデルベルクやライプチヒで生きたのだから

パリの音がする

感じる

のは

どうかしている

かも

しれない

わたしの青年時代から壮年期に

さんざん親しんだパリのあちこちの空気が

からだのまわりに舞うようで

不思議だった

 

パリ

こんなふうに持ち出すと

ちょっと昔のおフランス気取り

と思われるだろう

青年時代から30年間は

フランス人のエレーヌといっしょだったので

東京よりも

パリのほうが親しい生活だった

 

もちろん

これは

誰よりもフランス文化を知っている

などということは

意味しない

 

どこにいても

どこに行っても

なにに取り囲まれても

知り尽くすどころか

ろくにわからないまま

時間は流れ去る

時は流れる、お城が見える

無傷な心がどこにある

小林秀雄の訳したランボーの

『最高の塔の歌』が

思い出される

 

すべてが過ぎ去って

たくさんの人が去って

死んでいって

どんな嘆き節を歌おうか

どんな挽歌を作ろうか

そんなことばかり

考えているではないが

そんなことが思いから去る時は

一時もない




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