2021年10月19日火曜日

無残

 

西の海の仮のこの世の浪の上になに宿るらむ秋の夜の月

後鳥羽院

 

 



あんなにいた鈴虫が

ついに死に絶えて

動くもののなくなった飼育ケースの中に

無残

とでもいうものを

見ている

 

無惨

ではなく

無残

動くものが絶えた

残っているものがない

という意味での

無残

 

ああ

これが秋!

鳴く虫たちはあたりまえに逝き

もう動くものはいない

 

鈴虫は

枯れ草のように逝き

逝き

逝き

遺骸を割り箸で拾うたび

なんと

枯れ草の端のようか

コスモスの乾いた種のようか

その草葉っぽさに

感心した

 

草葉がむかし

じぶんたちもちょっと移動してみたい

などと思い

変身してみたのが

たぶん

鈴虫

 

ただ鳴くのをやめて

よろよろとなって

憔悴して

ある日

ぴたりと動かなくなる

その草葉っぽさに

晩秋が

しおしおと来る

 

静かで

平穏な

無残

 

晩秋が

しおしおと来る






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